2025年9月17日に実施したインタビューを元に執筆しています。
脳梗塞や脊髄損傷によって、ある日突然、当たり前だった日常が奪われる。
懸命なリハビリにもかかわらず、思うように改善しない後遺症に、「もうこれ以上は良くならないのかもしれない」と途方に暮れている方はいませんか?
ただし、近年の医療革新は目覚ましく、再生医療とリハビリテーションを融合させた新しいアプローチがあるそうです。
今回は、脳梗塞・脊髄損傷の後遺症治療を専門とし、独自の特許技術「リニューロ®」を提供する「脳梗塞・脊髄損傷クリニック」の総院長、貴宝院 永稔(きほういん ながとし)先生にお話を伺いました。
貴宝院先生が語る「人間の治る力」|医師としての原点とクリニック開院の想い
まず、貴宝院院長の医師としてのルーツや、専門クリニックを開院するに至った経緯について伺いました。
その背景には、祖父から受け継がれた「医療の本質」への強い信念がありました。
ーー先生が医師を志し、数ある診療科の中からリハビリテーション科を選ばれたのには、どのような経緯があったのでしょうか?
貴宝院院長
私の原点には、祖父の存在が大きく影響しています。祖父、貴宝院秋雄は医師であり、日本で献血制度の発案に尽力したり、鶏卵による天然痘ワクチンの大量生産を成功させたりと、公衆衛生に尽力した人物でした。
そんな祖父の口癖は、いつも同じでした。「人間には治る力がある。その人間の治る力を利用するのが医療の本質だ。これを忘れてはならない」と。幼い私にも、繰り返しそう語りかけてくれました。私が怪我をした時も、「大丈夫、必ず治る」という祖父の言葉は、不思議なほど私を安心させてくれました。根拠がなくとも、その言葉には魔法のような力があると感じ、「人間の治る力」に強く魅了されていったのです。
その思いを胸に医療の世界へ進み、研修医として様々な診療科を回りました。内科は薬を、外科は手術を主な武器とします。その中で、「人間の治る力」を活かせるのはどの分野だろうかと考えた末にたどり着いたのが、リハビリテーション科でした。
ーーリハビリテーション科の医師としてキャリアを積む中で、なぜご自身で新たな治療法を開発しようと思われたのですか?
貴宝院院長
リハビリテーション科医として、寝たきりの最大原因である脳梗塞や、重い後遺症が残る脊髄損傷の患者さんを数多く担当しました。しかし、脳や脊髄というのは、一度損傷すると最も治りがたい組織です。ロボットや鍼灸、漢方といった先進的なリハビリを試みても、なかなか越えられない壁がありました。そのもどかしさの中で、ふと祖父の「人間の治る力を利用するのが医療だ」という言葉を思い出したのです。
「治る力を引き出すことができれば、神経障害も改善できるはずだ」と信じ、神経再生医療の分野に足を踏み入れました。これが、現在の私たちの治療の根幹となる再生医療との出会いです。
ただ、当初は再生医療、具体的には幹細胞治療を行っても、それだけでは十分に改善しない患者さんもいらっしゃいました。そんな時、ある失語症の患者さんに幹細胞を投与しながら会話を試みていたところ、治療後しばらくして「ろれつが回りやすくなった」「言葉が出やすくなった」と変化が見られたのです。この経験から、「細胞を入れるだけでなく、治る力が高まった状態で、狙った神経回路を同時に刺激し、強化していくことが重要なんだ」と確信しました。
ーーその確信が、病院内での研究に留まらず、専門クリニックの設立に繋がったのですね。
貴宝院院長
はい。この「再生医療」と「リハビリテーション」を組み合わせるという考え方は、日本で探してもなかなかない治療法だと思います。ただし、大学病院などで臨床研究として進めようとすると、準備から開始までに5年、10年と膨大な時間がかかります。対象となる患者さんもごく少数に限られてしまい、一年で一人か二人しか治療できない、ということも珍しくありません。
「これではいけない」と感じた私は、神経障害に苦しむ多くの方々を救うために、もっとスピーディーに治療を提供し、多くの症例を積み重ねていく必要があると考えました。症例が増えれば、私たちの治療技術もさらに磨かれていきます。そうした想いから、臨床治療としてこのアプローチを提供できる専門クリニックを立ち上げることを決意しました。

神経障害は「治る」を当たり前にしたい|再生医療×リハビリ「リニューロ®」
貴宝院院長が開発した「リニューロ®」は、従来の治療とは異なるアプローチです。
なぜ「再生医療」と「リハビリ」の組み合わせが重要なのかを詳しく解説していただきました。
ーー先生が開発された特許技術「リニューロ®」とは、具体的にどのような治療法なのでしょうか?
貴宝院院長
「リニューロ®」は、一言で言えば「狙った神経回路の治る力を再生医療で引き出し、その回路を専門的なリハビリで効率的に強化する」という複合治療法です。
神経障害の回復には、言うまでもなくリハビリテーションが不可欠です。しかし、重度の障害やご高齢の場合など、リハビリだけでは改善に限界があるケースも少なくありません。そこでまず、ご自身の骨髄などから採取した幹細胞を培養し、点滴で体内に戻す再生医療を行います。これにより、狙った神経回路の治る力を高める(神経回路の伝導を良くしたり、新しい神経回路を作る)、つまり神経が回復しやすい”土台”を整えるのです。いわば、畑に良い土と肥料を与えるようなイメージですね。
しかし、良い畑を用意しただけでは作物は育ちません。そこに種をまき、水を与え、育てるという「働きかけ」が必要です。その働きかけこそが、専門的なリハビリテーションなのです。
ーー再生医療だけでも、リハビリだけでも不十分で、二つを組み合わせることが鍵なんですね。
貴宝院院長
その通りです。「再生医療 × 神経刺激(リハビリ)」の同時並行こそが、「リニューロ®(狙った神経回路の再構築)」の核心です。幹細胞を点滴している最中から、体内では幹細胞の血中濃度が急激に高まります。このタイミングを逃さず、動かしたい手足に関連する神経回路を刺激するリハビリを集中的に行うことで、幹細胞が損傷部位へより集積しやすくなると考えられます。
私たちはこれを「リニューロ®治療」と呼んでいます。治る力が高まっている時に、狙いを定めて神経を刺激し、反復運動を行う。そうすることで、眠っていた神経回路が再接続されたり、新しい回路が構築されたりすると考えています。このようにして、従来では難しかった機能を回復させようとする治療法が「リニューロ®治療」です。
ーーリハビリも、ただ動かすのではなく「狙いを定めた」専門的なものが必要なのですね。
貴宝院院長
はい。私たちは、鹿児島大学名誉教授である川平 和美先生が考案された「促通反復療法(川平法)」をベースに、独自の工夫を加えたリハビリテーションを実践しています。
具体的には、磁気刺激(r-TMS)や電気刺激、振動などを用いて、目標とする神経回路が興奮しやすい状態をあらかじめ作ります。これを専門的には「運動の閾値を下げる」と言いますが、要は神経の感度を高めておくということです。その上で、正しい動作を繰り返し行うことで、神経の伝達効率が上がり、回路が強化されていきます。「一緒に発火するニューロンは、一緒に結びつく」というヘッブの法則に基づいた、科学的なアプローチです。
この治療法は、患者さんがただ動かされるだけでなく、ご自身の意識で「動かそう」とすることが、神経回路の再構築を促す上で非常に重要になります。

ニューロテック®が拓く神経再生医療|患者一人ひとりに寄り添う治療体制
貴宝院院長の挑戦は、クリニック内だけに留まりません。
「ニューロテック®(神経障害をテクノロジーで治療する)」という概念を掲げ、研究開発から治療ネットワークの構築まで、神経障害に苦しむ人々のためのエコシステム作りを目指しています。
ーー脳梗塞・脊髄損傷クリニックには、どのような症状の患者さんが来院されることが多いのでしょうか?
貴宝院院長
脳梗塞や脊髄損傷の後遺症に悩む方が中心ですが、その症状の程度は、非常に重度な方から、一見しただけでは分からないほど軽度な方まで様々です。
最近では、慢性疼痛や認知症、そしてパーキンソン病やALS(筋萎縮性側索硬化症)、多発性硬化症といった、進行性の神経難病の方もご相談に来られるようになりました。「リニューロ®」の技術は、脳卒中や脊髄損傷だけでなく、より幅広い神経疾患に応用できる可能性を秘めていると考えています。将来的には、発症後の治療だけでなく、予防医療の分野でも貢献できると期待しています。
ーー東京や大阪をはじめ、全国の主要都市にクリニックを展開されていますが、その理由を教えてください。
貴宝院院長
神経障害を持つ患者さんにとって、移動は大きな負担です。治療へのアクセスしやすさは、非常に重要な課題です。そこで、私たちは患者さんに少しでも近づけるよう、全国の主要都市に治療拠点を作っています。
また、私たちの目指す医療は、クリニックだけで完結するものではありません。リハビリテーションは、日々の生活の中で継続することが大切です。そのため、クリニックだけでなく、専門的なリハビリ施設や介護施設とも連携し、患者さん一人のためにチームで尽力できるネットワークを構築しています。将来的には、DXやAI技術も活用しながら、どこにいても質の高い治療を受けられ、その情報を共有・進化させていける体制を整えたいと考えています。
ーー関西医科大学との共同研究も始められたそうですね。こうした学術的な取り組みの目的は何でしょうか?
貴宝院院長
私たちが提供する「リニューロ®(狙った神経回路の再構築)」という複合治療が、いかに安全で、どれほどの効果が期待できるのか。その科学的根拠(エビデンス)を確立することが、この共同研究の最大の目的です。
三次元動作解析や筋電図といった客観的なデータを蓄積・検証することで、より効果的な治療プロトコルを構築し、治療法をさらに進化させていきたい。これからも、一例一例のデータを大切に積み重ね、この治療法を用いて神経障害治療の有効性を検証する研究を続けていくことが私たちの使命だと考えています。
脳梗塞・脊髄損傷の後遺症で悩んでいる方々へ|貴宝院院長からのメッセージ
最後に、後遺症と向き合い、日々を懸命に生きる患者さんやそのご家族へ向けて、貴宝院院長からメッセージをいただきました。
ーー患者さんと接する上で、先生が最も大切にされていることは何ですか?
貴宝院院長
私が常に意識しているのは、「人間には治る力と、悪くなる力の両方がある」ということです。この二つの力のバランスによって、人の体は良くも悪くもなります。
ですから、まずは患者さんご自身にそのバランスを意識していただくことが大切です。例えば、過度な飲酒や不規則な生活、強いストレスは「悪くなる力」を増大させます。逆に、バランスの取れた栄養や十分な血流は「治る力」を高めます。私たちは、患者さんの状態を多角的に評価し、「治る力」を高め、「悪くなる力」を最小限に抑えるためのアドバイスも大切にしています。
その上で、私たちの治療によって神経の「治る力」そのものを鼓舞し、効率的に機能を強化していく。そうすることで、その方が持つ回復力を引き出すことができると信じています。
ーー今後の展望についてお聞かせください。
貴宝院院長
短期的には、私たちが持つ「標的再生医療」と「標的リハビリテーション」の技術を、一人でも多くの神経障害に苦しむ方へ届けることです。そのための治療ネットワークと、技術を担う人材を育てる研究会の活動を、さらに加速させていきます。
長期的には、健康寿命を延ばすことにも貢献したいですね。最近の研究では、110歳以上の超高齢者(スーパーセンチナリアン)には、「高い認知機能」「虚弱(フレイル)でないこと」「良好な心機能と腎機能」という三つの共通点があることが分かっています。私たちの技術は、この三つの要素すべてに貢献できる可能性を持っています。誰もが持つ「治る力」を、病気になる前から高めておく。そんな未来も、そう遠くないかもしれません。
ーー最後に、後遺症に悩み、治療を諦めかけているかもしれない読者の方々へメッセージをお願いします。
貴宝院院長
かつて、脳や脊髄は一度傷つくと二度と元には戻らない、というのが常識でした。しかし、研究が進み、死んでしまった神経細胞は再生しなくとも、その周りの神経が新たに繋がったり、別の部分が機能を代行したりと、脳には驚くべき回復力(可塑性)があることが分かっています。
大切なのは、その「治る力」を信じ、諦めないことです。そして、その力を正しく引き出し、効率的に強化してあげることです。
もし、今のリハビリに伸び悩みを感じていたり、何か新しい目標に向かってもう一歩を踏み出したいと思っていたりする方がいらっしゃれば、私たちの治療がその助けになるかもしれません。

脳梗塞・脊髄損傷クリニック
診療科目 | リハビリテーション科、神経再生医療、再生医療、整形外科 |
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対象項目 | 脳卒中、脊髄損傷、神経変性疾患、慢性疼痛、慢性関節炎、フレイル |
住所 | (脳梗塞·脊髄損傷クリニック銀座院) 〒104-0061 東京都中央区銀座7-8-13 Brown Place 5F (脳梗塞·脊髄損傷クリニック提携東京院) 〒100-6210 東京都千代田区丸の内1-11-1 パシフィックセンチュリープレイス丸の内 10F (脳梗塞·脊髄損傷クリニック提携大阪院) 〒536-0005 大阪市城東区中央1-9-33 泉秀園城東ビル2F (脳梗塞・脊椎損傷クリニック提携札幌院) 〒060-0004 北海道札幌市中央区北4条西2-1-2 キタコートレードビル7F (脳梗塞·脊髄損傷クリニック提携名古屋院) 〒453-6105 愛知県名古屋市中村区平池町4-60-12 グローバルゲート5階 (脳梗塞・脊椎損傷クリニック 提携福岡院) 〒810-0001 福岡県福岡市中央区天神1-12-7 福岡ダイヤモンドビル9F (ニューロテックメディカル リハビリセンター) 〒171-0021 東京都 豊島区西池袋3-26-5 ニューマツモトビル6階 |
診療日 | *再生医療の診察時間については各クリニックに直接お問い合わせください。 |
休診日 | *再生医療の診察時間については各クリニックに直接お問い合わせください。 |
院長 | 貴宝院 永稔 |
TEL | 0120-987-265 |
最寄駅 | (脳梗塞·脊髄損傷クリニック銀座院) 東京メトロ銀座線「銀座駅」A2出口より徒歩5分 JR各線「新橋駅」徒歩5分 (脳梗塞·脊髄損傷クリニック提携東京院) JR各線「東京駅」八重洲南口出口より徒歩3分 東京メトロ銀座線「京橋駅」7番出口より徒歩5分 (脳梗塞·脊髄損傷クリニック提携大阪院) 大阪メトロ長堀鶴見緑地線「蒲生4丁目駅」より徒歩2分 JRおおさか東線「野江駅」より徒歩12分 京阪「野江駅」より徒歩10分 (脳梗塞・脊椎損傷クリニック提携札幌院) JR各線「札幌駅」東コンコース南口より徒歩3分 (脳梗塞·脊髄損傷クリニック提携名古屋院) あおなみ線「ささしまライブ駅」ぺデストリアンデッキにて直結 (脳梗塞・脊椎損傷クリニック 提携福岡院) 福岡市地下鉄空港線「天神駅」より徒歩5分 (ニューロテックメディカル リハビリセンター) JR各線「池袋駅」西口より徒歩2分 |