信州会クリニック|永井  一成 院長に聞いた“命と時間”を守るための医療哲学とは?日本橋にある「街の保健室」

2025/07/28に実施したインタビューを元に執筆しています。

多忙な毎日を送る中で、病院に行くこと自体が大きな負担となり、つい我慢してしまった経験はありませんか。

今回、私たちは東京・日本橋人形町にある信州会クリニックの永井 一成(ながい かずしげ)院長に、お話を伺いました。

このクリニックが掲げるのは「医療にかかるコストは、お金よりも時間」。

平均診察待ち時間3分、会計処理2分を実現し、血液検査の結果も検査結果伝票が到着次第早急にメールで返す“超効率診療”を20年以上磨き続けてきました。

なぜ、永井院長はそれほどまでに「時間」にこだわるのでしょうか。

目次

永井院長の医療哲学と信州会クリニックの取り組み

信州会クリニックの全ての取り組みは「患者さんの時間を1秒でも無駄にしない」という、シンプルかつ確固たる信念に基づいています。

その考えが生まれた原点と、クリニックの根幹をなす思想の背景に迫りました。

ーーなぜ先生は、「時間」にこだわるのでしょうか?

永井院長
 シンプルに言うと、「もし自分が患者だったら、絶対に嫌だ」と思うことを、やりたくないだけなんですよ。だって、考えてみてください。新幹線がビュンビュン走っているこの時代に、1ヶ月前に採った血液検査の結果を「はい、これが先月の結果です」なんて言って渡される。まるで江戸時代の飛脚みたいなスピードでしょう?(笑)
 私にとって、患者さんの“命”の次に大切なものは、間違いなく“時間”なんです。病気で苦しんでいる時間、待合室で待っている時間、検査結果を不安に思いながら過ごす時間…。これら全てが、患者さんの貴重な人生から奪われている時間であり、医療が本来向き合うべき「コスト」だと考えています。だから、予約制はもちろん、診察待ち3分、会計2分、検査結果のメール通知といった仕組みは、私にとってはごく当たり前のことなんです。

ーーその考え方は、いつ頃からお持ちだったのですか?

永井院長
 医師になった頃から、ずっとですね。特に麻酔科医として大学病院にいた頃は、手術室という、まさに秒単位で人の命が動く現場にいました。そこでは、判断の遅れや無駄な動きが、直接患者さんの不利益に繋がります。
 どうすればもっと効率的に、もっと安全にできるかを常に考えるのが癖になっていました。その感覚を持ったまま、いざ外来の現場を見てみると、あまりにも無駄な時間が多いことに愕然としたんです。「この待ち時間は何とかならないのか」「この事務処理はもっと簡略化できるだろう」と。その時の問題意識が、今のクリニックの全てのシステムの土台になっていますね。

ーー先生は英国への留学経験もあると聞きました。

永井院長
 ええ、1995年から1年間、イギリスに留学しました。そこで目の当たりにしたのが、「GP(ジェネラル・プラクティショナー)」と呼ばれる家庭医制度です。イギリスでは、体調が悪くなったら、まず自分の登録しているGPに診てもらうのが基本。GPは専門の臓器だけを診るのではなく、文字通り“人間まるごと”を診て、必要があれば専門医に紹介する、という役割を担っています。これを見た時、「これだ!」と思いました。
 日本の医療は専門性が高い反面、科が細分化されすぎています。「腰が痛い」と思っても、整形外科に行くべきか、内科なのか、あるいは婦人科なのか、患者さん自身が判断するのはとても難しい。結果、あちこちの科をたらい回しにされて、時間もお金も無駄にしてしまう。こんなに患者さんにとって不親切なことはない、と強く感じました。

ーーその時の経験が、信州会クリニックの診療体系に繋がっているのですね。

永井院長
 まさしく。内科・皮膚科・麻酔科(ペインクリニック)という、日常で遭遇しやすい症状の多くをカバーできる3つの科を、私が一人で診る。そうすれば、患者さんはクリニックを変える必要はない。一つの診察室で、さまざまな悩みを解決できる。それが、私が留学経験から導き出した、一つの答えでした。
 開業した2001年当時、予約制で、キャッシュレス決済ができて、電子カルテで、なんていうクリニックはほとんどありませんでした。周りからは「そんなの早すぎる」と言われましたが、患者さんの“時間”という価値を考えれば、むしろ遅すぎるくらいだと思っていましたね。

信州会クリニックは「街の保健室」|“人間まるごと”を診る診療

「困ったら、まず永井先生のところへ行こう」信州会クリニックは、地域の人々にとってそんな「街の保健室」のような存在だと言えるでしょう。

そのユニークな機能と、それを支える徹底した効率化の裏側に迫りました。

ーー先生が掲げる「街の保健室」というコンセプトについて、詳しく教えてください。

永井院長
 学校に保健室ってありましたよね。怪我をしたらもちろん、何だかお腹が痛い時、頭が痛い時、あるいはちょっと心が疲れた時にも、とりあえず相談に行く場所。私が目指しているのは、まさにアレなんです。
 「背中が痛いんだけど、これって筋肉痛?それとも内臓の病気…?」みたいに、原因がはっきりしない時ほど、うちに来てほしい。私は内科も皮膚も痛みも診ますから、まずは全身の状態をチェックして、重篤な病気の可能性がないかを確認する。いわゆるトリアージですね。
 もし、うちで対応できる範囲なら、その場で治療を始めます。より詳しい検査や専門的な治療が必要だと判断すれば、最適な専門医に繋ぐ。患者さんが悩む前に、私がその道筋を立ててあげる。それが「街の保健室」の一番大事な役割です。

ーー大病院との連携も、非常にスムーズだと伺いました。

永井院長
 一般的なクリニックだと、「紹介状を書きますから、また後日取りに来てください」なんてこともありますが、そんな時間のロスは作りません。
 例えば、患者さんからLINEや電話で「こんな症状が出ている」と連絡があれば、その内容から緊急度を判断します。その後、私が直接、提携している基幹病院の担当医に連絡して、「今からこういう患者さんが行きますから、よろしくお願いします」と段取りをつけてしまうこともあります。紹介状のためだけに、患者さんに二度も三度も足を運ばせるなんて、私の哲学に反しますからね。

ーーHPを拝見したのですが、平均待ち時間3分というのは驚異的です。どのような工夫があるのでしょうか?

永井院長
 特別な魔法があるわけではなくて、無駄なプロセスを徹底的に排除しているだけです。うちは予約制なので、そもそも待合室に大勢の人が溢れる、という状況がありません。来院されたら、ほとんど待つことなく診察室に入っていただきます。
 よく「待ち時間が長い分、診察は3分」なんてこともあるようですが、当院では待合室で過ごすはずだった無駄な時間を、全て患者さんとお話しするための時間に変えているんです。だから、私との対話時間は、決して短くないはずです。
 患者さんが抱えている悩みや不安を、じっくりと聞く余裕が生まれる。これも「時間を生み出す」工夫の一つですね。

ーーまた、検査結果をメールで知らせてくれるそうですが、非常に画期的ですね。

永井院長
 画期的というか、今の時代、当たり前だと思うんですけどね(笑)。血液検査のデータは、通常、翌日の朝には私のPCに届きます。そのデータを見て、例えば糖尿病の患者さんなら「血糖値が安定しているので、今日からこの薬を半分にしてみましょう」とか、コレステロールが高い方なら「数値が良いですね、この調子でいきましょう」といった指示やアドバイスを、その日のうちにメールでお送りします。
 患者さんは、結果を聞くためだけに来院する必要がない。そして何より、“情報の鮮度”が違います。1ヶ月前の検査結果を見て「じゃあ今日から薬を変えましょう」と言われても、その1ヶ月の間に体調は変わっているかもしれない。昨日採ったデータを見て、今日アクションを起こす。このスピード感こそが、治療効果を最大化すると信じています。
 患者さんへのアンケートでも、この点は非常に高く評価していただいていますね。

永井院長の三つの顔|麻酔科医・内科医・皮膚科医の複合的視点

永井院長は麻酔科・内科・皮膚科という三つの専門領域を持っています。

それぞれの領域における、永井院長ならではの治療アプローチに迫ります。

ーー「痛み」の専門家であるペインクリニックを標榜されていますが、なぜ麻酔科の先生が診察することが大切なのでしょうか。

永井院長
 良い質問ですね。麻酔科医というのは、もともと手術中の痛みを取り、全身の状態を管理する専門家です。つまり、体の一部分ではなく、神経や血流、呼吸、循環器など、“人間まるごと”を一つのシステムとして見る訓練を徹底的に受けているんです。
 だから、例えば「腰が痛い」という患者さんが来た時も、その痛みが骨や筋肉から来ているのか、神経の圧迫から来ているのか、ストレスからなのか、あるいは内臓の病気のサインなのかを、非常に広い視野で判断できるのが強みです。臓器で区切らず、痛みの根本原因を突き止める。それが麻酔科医のペインクリニックなんです。

ーー具体的には、どのような痛みを診てもらえるのでしょうか?

永井院長
 腰痛や坐骨神経痛、肩こりはもちろん、帯状疱疹の後に出るピリピリとした神経痛、顔面に激痛が走る三叉神経痛、薬が効きにくい難治性の頭痛まで、ありとあらゆる「痛み」が対象です。治療法も一つではありません。
 痛みの原因となっている神経の興奮を直接抑える神経ブロック注射や、凝り固まった筋肉をほぐすトリガーポイント注射といった西洋医学的なアプローチに加え、体質改善を目指す漢方薬の処方、さらには気の流れを整える遠絡(えんらく)療法という特殊な治療(保険適用外)まで、選択肢は多彩です。
 患者さん一人ひとりの状態に合わせて、これらの治療法を組み合わせた“複合治療”で、「通院は最少回数で、効果は最大に」を目指します。ただ痛みを抑えるだけでなく、再発しない体づくりを手伝い、痛み止めを飲み続ける生活から“卒業”してもらうのが最終目標です。

ーー内科領域では「薬を減らす治療」を大切にされているそうですね。

永井院長
 はい。特に、高血圧や糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病では、安易に「数値が悪いから薬を増やしましょう」という治療はしません。もちろん薬が必要なケースはありますが、その前に「なぜ数値が悪くなっているのか」「薬に頼らずに改善できる部分はないか」を徹底的に考えます。
 当院では、血管の硬さや詰まり具合を調べる動脈硬化の検査(CAVI/ABI)などができます。こうした客観的なデータで動脈硬化の進行度をきちんと評価し、まだ軽症の段階であれば、食事や運動といった生活習慣の改善で数値をコントロールできないか、患者さんと一緒に頑張ります。
 薬はあくまでサポート役。自分の力で健康を取り戻し、最終的には薬から離脱することを応援したいんです。

ーー喘息への知見も豊富だとお聞きしました。

永井院長
 ええ、英国留学時代に、血流と免疫細胞の研究をしていた経験が大きいですね。喘息治療でよく使われるステロイドは非常に有効な薬ですが、長期的に使うことへの不安を感じる患者さんも多い。そこで、血液検査で好酸球というアレルギーに関わる細胞の数値を細かくチェックしながら、安全にステロイドを減量、あるいは中止できないかを常に探っていきます。
 ただ症状を抑えるだけでなく、患者さんのQOL(生活の質)全体を向上させる視点を忘れないようにしています。QOLの観点から、患者様のニーズに応えることができるように美容など、自由診療の領域にも注力しています。

ーー内科の先生が、美容皮膚科まで手掛けるのは珍しいですね。

永井院長
 そうかもしれませんね。でも、私にとってはごく自然な流れなんです。
 例えば、長年ニキビに悩んでいる方が、保険診療で薬をもらってもなかなか良くならない。でも、自費診療のPRP(多血小板血漿)療法という、ご自身の血液から成長因子を抽出して注入する治療を組み合わせたら、ずっと悩んでいたニキビ跡が綺麗になった。その結果、その方が自信を取り戻して、表情まで明るくなる。湿疹やアトピーといった病気を治すこと(保険診療)と、シミやシワ、薄毛(AGA)といったコンプレックスを解消すること(自費診療)は、地続きなんです。どちらも、その方の人生をより豊かにするという点では同じ医療ですから。
 「見た目の悩み」も、体の痛みと同じくらい切実な“痛み”の一つ。そこに保険か自費かという壁を作りたくなかったんです。男性の患者さんも多いですよ。どんな方でも、どんな悩みでも気軽に相談してもらえる場所でありたいですね。

デジタル時代の信州会クリニック|“時間ロスゼロ”への挑戦

開業当初からデジタル活用を推進してきた永井院長。その視線は、常に未来を見据えています。

クリニックのこれからと、変わらない想いについて聞きました。

ーーオンライン診療にも対応されていますが、どのように活用していますか?

永井院長
 いくつかのプラットフォームに対応していて、技術的にはいつでも可能です。ただ、私の考えとしては、オンライン診療は「どうしても来院できない時のための最終手段」と位置付けています。実際に話を伺っていると、患者さんは、やはり顔を見て診察してほしいと望んでいますからね。
 高熱でどうしても動けない時や、遠方にお住まいの既存の患者さんが薬の継続を希望される場合など、緊急度や必要性に応じて限定的に活用しています。対面のコミュニケーションから得られる情報の価値は、やはり大きいですよ。

ーー先生ご自身でホームページを更新したり、ブログを書いたりもされているとか。

永井院長
 はい、HTMLを直接打って作ったりもします(笑)。これも「情報の鮮度」へのこだわりです。新しい治療法や、季節ごとに注意すべき健康情報など、私が「これは患者さんに伝えたい!」と思ったことを、業者を介さずに、自分の言葉で、最速で届けたいんです。
 Instagramも、美容医療のような、少しハードルが高いと感じられる情報を、分かりやすく伝えるツールとして活用しています。

ーー最後に、信州会クリニックが描く未来についてお聞かせください。

永井院長
 やるべきことは、今も昔も変わりません。“患者さんの命と時間を守り抜く”、ただそれだけです。そのために、テクノロジーを使ってできることは、これからも積極的に取り入れていきます。
 予約や決済システムをさらに使いやすくしたり、検査結果のレスポンスをさらに1秒でも短縮したり…。挑戦に終わりはありません。結局のところ、患者さんの人生を1分でも豊かにするためには、まず私たち医療を提供する側が、1分1秒を惜しんで動き、考え続けるしかない。
 日本橋人形町というこの場所で、悩める誰かのための「街の保健室」として、これからも走り続けたいと思っています。

信州会クリニック

診療科目内科・皮膚科・麻酔科 (ペインクリニック)
住所〒103‑0012
東京都中央区日本橋堀留町1‑2‑13
信州会ビル3階
診療日平日 10:00‑16:00(最終受付15:30)
休診日第一・第三土曜、日、祝日
院長永井 一成
TEL03‑3662‑1166
最寄駅銀座線「三越前駅」徒歩5分
日比谷線「人形町駅」徒歩5分
日比谷線「小伝馬町駅」徒歩4分
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この記事を書いた人

診療ナビ」はアドバイザーナビ株式会社が運営する医療情報発信メディアです。開業クリニックの先生方に直接取材を行い、診療への姿勢や先進医療への取り組み、地域医療への貢献、さらには医療業界に対する考えや想いをお届けします。読者の皆さまにとって、医療をより深く理解し、身近に感じていただける発信を続けてまいります。

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