2025年8月12日に実施したインタビューを元に執筆しています。
多忙な毎日の中で、体に小さな異変を感じても、つい後回しにしてしまう。
一体どの病院の、何科にかかればいいのか分からず、一歩を踏み出せない。そんな経験はありませんか?
今回、私たちは小田急線「経堂駅」南口から徒歩1分にある『しが内科・循環器内科クリニック』の志賀 洋史(しが ひろし)院長にお話を伺いました。
志賀院長は、心不全や心筋梗塞といった、まさに一刻を争う命の現場で腕を磨いてきた循環器内科の専門医です。
なぜ、急性期医療の最前線にいた専門医が、「街のクリニック」を開いたのでしょうか。
志賀院長の原点|受け継がれる想いと、最前線で培われた知識と経験
クリニックの根幹をなす、志賀院長の医師としての思想。
その源流は、日本の医学史に名を刻む偉大な曽祖父の存在と、大学病院で命と向き合い続けた日々にありました。
ーー先生の曽祖父は、赤痢菌を発見された細菌学者の志賀潔先生だと伺いました。先生が医師を志す上でどのような影響を与えたのでしょうか?
志賀院長
そうですね、物心ついた頃から、祖母が曽祖父の話をよくしてくれました。研究者としてだけでなく、一人の人間として、どのように社会と向き合っていたのか。そういう話を繰り返し聞いているうちに、ごく自然に「自分も人の役に立つ仕事がしたい」「医療の道に進みたい」と考えるようになっていました。
プレッシャーというよりは、道標のような存在だったのかもしれません。曽祖父は戦争で福島に疎開していた時期があり、私も不思議なご縁を感じて福島の大学に進学したんです。彼が基礎研究で多くの命を救ったように、自分は臨床医として、目の前の一人ひとりの患者さんと向き合いたい。その想いが、医師としての私の原点になっています。
ーーなるほど。その想いがクリニック開業に繋がっているのですね。
志賀院長
はい。大学病院などで急性期医療に長く携わっていると、どうしても患者さんとの関わりは「入院から退院まで」という限られた期間になりがちです。もちろん、それは非常にやりがいのある仕事です。ですが、退院された患者さんが、地域でどのような生活を送り、何に不安を感じているのか。その“暮らし”の領域にこそ、本来あるべき医療の姿があるのではないか、と考えるようになりました。
私自身が世田谷区に住んでいることもあり、この地域に根を下ろし、患者さんの人生に長く寄り添えるような医療を実践したい。そう考えていた時に、この経堂の地と巡り会えたんです。
ーー先生は数ある診療科の中から、なぜ「循環器内科」を専門に選ばれたのですか?
志賀院長
大学卒業後、循環器内科を選んだのは、その「ダイナミズム」に惹かれたからです。例えば、急性心筋梗塞や重症の心不全で苦しんでいる患者さんが運び込まれてくる。まさに絶体絶命の状況です。しかし、私たちがカテーテル治療などを行うことで、劇的に症状が改善する。ほんの数時間前まで命の危機にあった方が、数日後には笑顔でご家族と話している。その光景を目の当たりにした時、これほど医師としてのやりがいを感じられる分野はない、と思いました。
勤務医時代は、心不全、狭心症、心筋梗塞といった、まさに心臓血管系の病気の最前線で治療に明け暮れていました。秒単位の判断が求められる世界で、いかにして危険な兆候を見つけ出し、最善の一手を打つか。その経験は、私の医師としての大きな財産です。
ーー命を救う最前線から、なぜ「かかりつけ医」を目指そうと思われたのでしょうか?
志賀院長
それは、急性期医療の現場にいたからこそ、見えてきたことがあるからです。必死の治療で命を救い、退院した患者さんが、数年後にまた同じ病気で運ばれてくる。そういうケースを、残念ながら何度も見てきました。
その時、退院してからも治療を続けていく必要があるため、寄り添えるのはクリニックかもしれないと感じました。高血圧や糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病を、日々の暮らしの中でいかにコントロールしていくか。心臓の病気を一度経験した方が、二度と再発しないためにどうサポートしていくか。
そして何より、そもそも心臓の病気を発症しないために、予防段階で何ができるか。こうした「予防」や「継続的な管理」こそが、人々の健康寿命を延ばし、豊かな人生を守る上で最も重要だと考えています。
そして、その役割を担えるのは、大病院ではなく、地域に根ざしたクリニック、つまり「かかりつけ医」なんです。最前線で培った経験を、今度は地域医療に還元したいと考えています。
しが内科・循環器内科クリニックは“心臓と生活習慣病の総合窓口”
「この症状、何科に行けばいいんだろう?」
そんな悩みに応えてくれるのが、このクリニックの強みです。
ーーこちらのクリニックには、どのようなお悩みで来られる方が多いのでしょうか?
志賀院長
循環器内科を専門としていますから、やはり胸の痛みや動悸、息切れといった心臓に関連する症状や、生活習慣病で通院されている方が中心です。ですが、実際には「普通の風邪を引いた」「なんとなく体調が悪い」といった、ごく一般的な内科の症状で来られる方も非常に多いです。
近くに大学がある関係で、若い学生さんも気軽に立ち寄ってくれます。看板に「循環器」とあるので、少し敷居が高いと感じられる方がいらっしゃるかもしれませんが、そんなことはありません。
むしろ私は、「何科に行けばいいか分からない時こそ、うちに来てほしい」と思っています。例えば「胸が痛い」という症状一つとっても、心臓が原因のこともあれば、食道や肺、あるいはストレスや肋間神経痛の可能性もある。患者さんご自身でそれを判断するのは、ほぼ不可能です。
まずは私が総合的に診察し、循環器専門医としての視点から、心臓や血管といった命に関わる病気の可能性がないかを判断します。いわば最初の“道標”を立ててあげるのが、私の役割です。
もし、当院で対応できる範囲であれば、そのまま治療を始めますし、より専門的な検査や治療が必要だと判断すれば、責任を持って最適な医療機関にご紹介します。悩む前に、まず相談してほしい。当院は、そのための場所なんです。
ーー生活習慣病の治療において、先生が特に大切にされていることは何ですか?
志賀院長
生活習慣病の管理は、心臓の専門医にとって最も重要な仕事の一つです。
私は常に「一次予防」と「二次予防」という二つの視点を大切にしています。「二次予防」とは、一度、心筋梗塞や心不全などを経験された方が、二度と同じ病気を繰り返さないための治療です。これはご本人も病気の怖さを実感されているので、比較的お薬もしっかり飲んでいただけますし、生活改善にも熱心に取り組んでくださる方が多いです。
一方で、私がそれ以上に力を入れているのが「一次予防」です。つまり、まだ心臓の病気を起こしていない段階で、その原因となる高血圧や糖尿病、脂質異常症をしっかりとコントロールし、そもそも病気の発症自体を防ぐ、ということです。ご本人の自覚症状がないぶん、治療の必要性を理解していただくのが難しい場合もあります。ですが、この段階で介入することこそが、その方の長い人生を守る上で、何よりも大切なんです。
ーー健康診断で数値を指摘されても、つい放置してしまいがちです。
志賀院長
「コレステロールが少し高いだけ」で、お薬を飲むことに抵抗を感じる方は少なくありません。そういう方に、ただ頭ごなしに「薬を飲んでください」と言っても、心には響きませんよね。大切なのは、患者さんと一緒に考えることだと思います。
私は、動脈硬化の検査結果などの客観的なデータをお見せしながら、「今、あなたの血管はこういう状態です。このままにしておくと、数年後、数十年後に心筋梗のリスクがこれくらい高まる可能性があります。でも、ここでお薬を始めたり、生活を少し見直したりすることで、その未来を変えることができるんですよ」という風に、丁寧にご説明いたします。
治療の主役は、あくまで患者さんご自身。私はあくまでも伴走者として、納得して治療に臨んでいただけるよう、努めています。
ーー最近では、自由診療も始められたそうですね。
志賀院長
はい。かかりつけ医として地域の皆さんと接していると、保険診療の枠だけでは応えきれないお悩みがあることに気づかされます。
例えば、更年期を迎えた女性の、なんとも言えない不調や倦怠感。あるいは、働き盛りの方の、なかなか抜けない疲労感。そうした声にお応えするために、更年期症状の緩和が期待できるプラセンタ注射や、疲労回復をサポートするビタミン注射といった自由診療も導入しました。実際に、40代、50代の女性の方々を中心に、多くの方にご相談いただいています。
「専門外だから」と線を引くのではなく、目の前の患者さんが困っていることに、自分ができる限りの選択肢を提示したい。その想いが、診療の幅を広げることに繋がっていますね。
しが内科・循環器内科クリニックの強み|専門医としての「診断力」と、かかりつけ医としての「対話力」
志賀院長の診療は、急性期医療で培われた鋭い「診断力」と、患者一人ひとりの心に寄り添う温かい「対話力」という、二つの大きな柱で支えられています。
ーー緊急性の高い疾患を見逃さないために、どのような体制を整えているのでしょうか?
志賀院長
胸の症状を訴える患者さんを前にした時、私の頭の中は、常に急性期医療の現場と同じスイッチが入っています。この痛みは、緊急を要するものか、否か。その判断を迅速かつ正確に行うことが、何よりも重要です。
そのための“武器”として、クリニックには心電図はもちろん、心臓の動きや弁の状態をリアルタイムで観察できる心臓エコー、足の血圧を測ることで全身の血管の詰まり具合や動脈硬化の程度を評価できるABI検査などを揃えています。
最近では、脳梗塞のリスクにも関わる首の血管の状態を調べる頸動脈エコーも導入しました。これらの検査機器を駆使し、勤務医時代に培った経験と照らし合わせることで、心臓や血管の病気の緊急性については、ほぼこのクリニックの時点で判断できます。
患者さんをいたずらに不安にさせることなく、「大丈夫ですよ」あるいは「これはすぐに専門病院で診てもらう必要があります」というようにしっかりとお伝えできるような体制を整えています。
ーー最近はスマートウォッチで心拍の異常を検知する方も増えていると聞きます。
志賀院長
非常に良い傾向だと思います。特に注意していただきたいのが「心房細動」という不整脈です。これは不整脈の中でも比較的よく見られるものですが、動悸などの自覚症状がない“かくれ心房細動”の方も多く、ご自身では気づいていないケースが少なくありません。心房細動がすぐに命に関わるわけではありませんが、放置すると心臓に負担がかかって心不全の原因になったり、心臓の中に血の塊(血栓)ができやすくなったりします。この血栓が血流に乗って脳の血管に詰まると、重篤な脳梗塞を引き起こす可能性があるのです。
ですから、可能な限り早期に発見し、血をサラサラにするお薬を始めるなどの適切な治療を受けることが非常に大切です。健康診断の心電図で異常を指摘された方はもちろん、スマートウォッチの通知で「脈の乱れ」を指摘された方も、決して放置せず、一度循環器内科を受診してください。
ーー先生が、日々の診療で最も大切にされていることは何でしょうか。
志賀院長
これはもう、開業当初から一貫して変わらないのですが、「会話の中で、患者さんが本当に求めているものは何かを察知すること」です。当たり前のようですが、これが一番難しく、そして一番大切なことだと考えています。
例えば、胸の痛みを訴えて来られた患者さんがいるとします。心電図やエコーを撮り、「心臓は大丈夫ですよ」とお伝えします。すると、心の底からホッとした表情で、「よかった、安心しました」と、それだけで満足して帰られる方もいます。その方にとってのゴールは、「命に関わる病気ではないと知ること」だったわけです。
しかし、別の方は違います。「心臓は分かったけど、じゃあこの痛みは何なんですか?痛いのは辛いんです」と、原因の究明と症状の緩和を強く求めていらっしゃる。そういった場合は、「もしかしたら肋間神経痛かもしれませんね」といった別の可能性を探ります。
患者さんが診察室のドアを開けてから出ていくまでの短い時間で、その方の言葉の端々や表情から、お悩みや不安、そして考えていることを的確に汲み取ること。そして、その方だけのオーダーメイドのゴールを一緒に設定してあげること。そのために、何よりもまず「話しやすい雰囲気」を作ることを心がけています。
ーー漢方薬の処方もされているそうですが、どのような場合に提案されるのですか?
志賀院長
はい、漢方の勉強も続けています。西洋医学的な検査では「異常なし」と診断されても、患者さん自身は「なんとなく調子が悪い」「冷えが辛い」「疲れやすい」といった、はっきりしない不調(不定愁訴)を抱えているケースは少なくありません。そうした症状に対して、西洋医学の薬ではアプローチが難しい場合でも、漢方薬が効果的なことがあります。
漢方は、一つの症状だけを叩くのではなく、その人の体質やバランスの乱れといった“全体”を整えることで、結果的に症状を改善していくという考え方です。例えば、先ほどお話しした肋間神経痛のような、検査では異常が見つかりにくい痛みに対しても、漢方が良い選択肢になることがあります。
循環器専門医としての西洋医学的な視点を土台にしつつ、漢方という引き出しも持つことで、より幅広い患者さんのお悩みに応えることができる。そう考えています。

しが内科クリニックのこれから|地域と共に歩むクリニックの“当たり前”
最後に、クリニックが目指すこれからの姿と、地域の方々へのメッセージを伺いました。
ーーWEB問診を導入されるなど、患者さんの利便性向上にも努めていらっしゃいますね。
志賀院長
はい。クリニックに来て、問診票を一から手で書くのって、体調が悪い時には結構な負担です。一方、当院ではWEB問診を導入していますので、事前にご自宅のスマホなどから入力していただければ、その内容が直接電子カルテに反映されます。患者さんの手間が省けるだけでなく、当院としても受付業務がスムーズになり、結果として診察までの待ち時間を短縮することができるんです。
ただ、オンライン診療については、現状ではまだ本格導入は考えていません。やはり、患者さんのお顔を見て、声のトーンを聞いて、肌の色を見て、といった対面だからこそ得られる情報の価値は非常に大きいと感じています。もちろん時代のニーズに合わせて、最適な形は常に模索していきたいですね。
ーー最後に、この記事を読んでくださっている皆さまへ、メッセージをお願いします。
志賀院長
これまでお話ししてきたことの繰り返しになりますが、本当に「こんなことで受診していいのかな」とためらわないでほしい、ということに尽きます。風邪でも、胸の痛みでも、生活習慣病の相談でも、更年期の不調でも、何でも構いません。まずは、あなたの不安やお悩みを聞かせてください。私の知識と経験を総動員して、あなたにとっての最善の道筋を一緒に考えます。
このクリニックが、経堂の皆さんにとって、健康のことで困った時に最初に思い出してもらえる「窓口」のような存在になれたら、これほど嬉しいことはありません。スタッフ一同、温かい雰囲気でお待ちしていますので、どうぞお気軽に、扉を開けてみてください。
しが内科・循環器内科クリニック
診療科目 | 内科・循環器内科 |
---|---|
住所 | 〒156-0052 東京都世田谷区経堂1丁目12-6 サザンヒルズ経堂2階 |
診療日 | (月火水木金土)9:00~12:30 (月火木金)14:30~18:00 ※受付は診療終了30分前まで |
休診日 | 水曜午後・土曜午後・日祝 |
院長 | 志賀 洋史 |
TEL | 03-6413-7113 |
最寄駅 | 小田急線「経堂駅」南口より徒歩1〜2分 |