2025年9月10日に実施したインタビューを元に執筆しています。
日中の眠気、会議中の集中力低下、パートナーからのいびきの指摘…。
「しっかり寝ているはずなのに、なぜか疲れが取れない」
「仕事のパフォーマンスが落ちている気がする」
そんな悩みを抱えるビジネスパーソンは少なくありません。
実はその不調は、単なる疲れではなく「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」という病気が原因かもしれません。
この記事では、働き世代の睡眠問題に特化した「渋谷睡眠・呼吸メディカルクリニック」の楠 裕司(くすのき ゆうじ)院長にインタビューした内容をお届けします。
「患者さんの“もったいない”をなくしたかった」渋谷駅徒歩1分に渋谷睡眠・呼吸メディカルクリニックを開いた理由
多くの医師の中からなぜ睡眠医療を専門とし、日本で最も多忙な街の一つである渋谷で開業したのでしょうか。
その背景には、働き世代の患者さん一人ひとりの人生に寄り添う、楠院長の熱い想いがありました。
ーー先生が医師を志し、呼吸器内科、そして睡眠医療を専門に選ばれた経緯を教えてください。
楠院長
医師を目指した一番の理由は、開業医だった父の背中を見て育ったことです。地域の方々から感謝され、頼りにされている父の姿は、子供心にとても誇らしく、自然と自分も同じ道を志すようになりました。医師になるからには、手術で病を改善させることよりも、父のように多くの患者さんと直接向き合い、じっくりお話を聞く「外来診療」を自分の軸にしたいという想いが強くありました。
さまざまな分野がある中で、私が選んだ呼吸器内科は、肺がんや気管支喘息、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、感染症など非常に幅広い疾患を扱う分野です。大学病院や関連病院で様々な経験を積む中で、特に私の心をとらえたのが「睡眠時無呼吸症候群」でした。
この病気は、働き盛りの20代から60代の方に非常に多く発症するにもかかわらず、ご自身が病気であることに気づいていないケースがほとんどです。日中のパフォーマンスを著しく低下させ、重大な事故につながるリスクもあります。社会生活に支障を来すこともあるため、早期の発見と対処が重要ですが、当時はまだ世間的な認知度が低かったんです。
「この状況は非常にもったいない。自分が専門家としてこの問題を解決したい」という想いが、睡眠医療の道へ進む大きなきっかけとなりました。
ーー大学病院などでのご経験を経て、なぜご自身でクリニックを開業しようと決意されたのでしょうか?
楠院長
大学病院で専門外来を担当していた時、大きなジレンマを感じていました。それは、診療時間が平日の夕方16時や17時と早い時間に終わってしまうため、最も治療を必要としているはずの働き世代の方々が、通院を継続できないという現実です。
睡眠時無呼吸症候群の治療は、高血圧などと同じで、長く付き合っていく必要があります。しかし、「仕事が休めないから」という理由で、せっかく始めた治療をやめてしまう方を何人も見てきました。専門性の高い医療を提供できる環境にいても、それが患者さんに届かなければ意味がありません。
「専門性の高い、しっかりとした治療を、もっと便利に、誰もが無理なく受けられるようにしたい」。この想いを実現するには、もう自分でやるしかない。そう決意し、開業へと至りました。これまでの院長としてのクリニック経営の経験も活かし、私の理想とする医療を形にしたのが、このクリニックです。
ーーなぜ数ある場所の中から、交通の要衝である「渋谷」を選ばれたのですか?
楠院長
とにかく「通いやすさ」にこだわりたかったからです。ターミナル駅の近くであれば、どこからでもアクセスしやすいだろうと考え、渋谷という街を選びました。実際にクリニックを開いてみると、渋谷周辺にお住まいの方よりも、近隣のオフィスで働く方が圧倒的に多いですね。IT企業のビジネスパーソン、コンサルタント、起業家や放送局の職員の方々など、まさに日本のビジネスを牽引する方々が、仕事の合間や終業後に立ち寄ってくださいます。
患者さんの年齢層も、自然と20代から60代の働き世代が中心となっており、まさに私がサポートしたいと考えていた方々に、医療を届けられていると実感しています。この場所でなければ、出会えなかった患者さんがたくさんいるはずです。

万病のもと?睡眠時無呼吸症候群の知られざるリスク
「いびきがうるさい」「昼間ちょっと眠いだけ」。そう軽く考えていませんか?
実はその裏には、仕事のパフォーマンスだけではなく、将来の健康寿命まで脅かす、深刻なリスクが潜んでいるかもしれないと楠先生は語ります。
ーーそもそも、睡眠時無呼吸症候群とはどのような病気なのでしょうか?
楠院長
睡眠中に呼吸が止まる、または浅くなる状態を繰り返す病気です。睡眠中に筋肉が緩むことでのどが狭くなり、空気の通り道である上気道が塞がってしまうことで起こります。大きないびきをかいていると思ったら、急に静かになり、その後、大きな呼吸と共に再びいびきが始まる、といった症状が特徴的です。
本人は眠っているので無自覚なことが多いですが、体内では呼吸が止まるたびに酸素不足に陥っています。脳や身体はそれを補おうと覚醒状態に近くなるため、睡眠が細切れになり、深い眠りが得られなくなってしまうのです。
ーー睡眠の質が下がる以外に、放置すると具体的にどのようなリスクがあるのでしょうか?
楠院長
リスクは大きく分けて2つあります。1つは、日中のパフォーマンスの著しい低下です。質の良い睡眠がとれていないため、日中に強烈な眠気や倦怠感、集中力の低下を引き起こします。ある研究では、睡眠時無呼吸症候群による注意力や判断力の低下が指摘されており、日常生活に影響を与える可能性があります。これは、仕事の効率低下だけでなく、重大な交通事故の原因にもなり得ます。
そして、もう1つのさらに深刻なリスクが、様々な生活習慣病の引き金になることです。睡眠中に低酸素状態を繰り返すと、身体は常にストレスに晒され、全身で炎症反応が活発になります。これは、まさに「アンチエイジングの逆」の現象で、高血圧、糖尿病、脂質異常症の発症リスクを3〜5倍に高めます。その結果、心筋梗塞や脳梗塞といった命に関わる病気につながることも少なくありません。
最近では、緑内障やアルツハイマー型認知症、うつ病、夜間頻尿などとの関連も指摘されています。複数の生活習慣病との関連があるため、注意が必要です。睡眠時無呼吸症候群は、単なる「眠さの病気」ではないということを知っていただきたいです。
ーーどのような症状があれば、クリニックを受診すべきでしょうか?
楠院長
ご自身で気づけるサインとしては、以下のようなものが挙げられます。
- 日中の耐えがたい眠気
- 朝起きた時の頭痛や、口の渇き
- 夜中に何度もトイレに起きる(夜間頻尿)
- 集中力や記憶力の低下
また、ご家族やパートナーから指摘されやすいのは、やはり「大きないびき」と「呼吸の停止」です。もし、ご家族からいびきや無呼吸を指摘されたら、それは身体からの重要なSOSサインです。まずは現状を正しく評価するためにも、ぜひ一度、お気軽に相談に来ていただきたいと思います。一人暮らしで心配な方は、いびきの状態を録音・測定できるスマートフォンアプリなどを試してみるのも良いでしょう。
専門医と二人三脚で取り組む|渋谷睡眠・呼吸メディカルクリニックの治療
働き世代にとって、治療の継続は大きな課題です。
渋谷睡眠・呼吸メディカルクリニックでは、患者さんの負担を最小限に抑え、かつ質の高い治療を提供するための独自の工夫が凝らされています。
ーーこちらでは、どのような検査や治療が受けられるのでしょうか?
楠院長
まず、ご自宅でできる簡易検査でスクリーニングを行います。そこで無呼吸症の疑いが強いと判断された場合、より詳細な精密検査に進みます。従来、この精密検査は入院が必要でしたが、当院では9割以上の方がご自宅で実施されています。検査機器の使い方は院内でスタッフが丁寧にご説明しますので、普段と変わらないリラックスした環境で、安心して検査を受けていただけます。
治療は、重症度に応じて選択します。軽症の方には、専門の歯科医に紹介し、睡眠中に装着して気道を確保するマウスピースの作製を行います。そして中等症から重症の方の第一選択となるのが、「CPAP(シーパップ)療法」です。これは、鼻に装着したマスクから空気を送り込み、その圧力で気道が塞がるのを防ぐという、世界的に標準となっている治療法です。
ーー治療は長く続くと伺いました。忙しいビジネスパーソンでも続けられる秘訣はありますか?
楠院長
おっしゃる通り、治療を継続することが何よりも重要だと考えています。ただ、その最大のネックとなるのが「手間」と「時間」です。当院では、その負担を軽減するためにオンライン診療を積極的に活用しています。
初診や治療の導入期は対面でしっかりと状態を拝見しますが、治療が安定してきたら、スマートフォンやPCを使ってご自宅や職場から診察を受けていただくことが可能です。実際に、当院の患者さんの半数以上がオンライン診療を利用して治療を継続されています。もちろん、直接お話したいという方は対面での診察も可能ですので、患者さんのライフスタイルに合わせて柔軟に対応しています。
ーーCPAP療法には、マスクを着けて寝ることに抵抗がある方もいるかと思います。続けられるよう、どのようなサポートをされていますか?
楠院長
CPAPは、私の印象では「自転車に乗る」とか「コンタクトレンズを入れる」というものに似ています。最初は違和感があって少しハードルを感じるかもしれませんが、慣れてしまえば、これなしではいられないほど快適になる方がほとんどです。
その「慣れるまで」の期間を、我々が全力でサポートします。治療開始時には、専門知識を持ったスタッフが40分から1時間かけて丁寧に機器の説明を行います。またLINEの問い合わせフォームを設けており、治療を始めてからも、困ったことがあればいつでも気軽に相談できる体制を整えています。医師に直接言いにくいことでも、スタッフになら話せるということもありますからね。
私たちの役割は、ダイエットやスポーツにおけるコーチングのようなものだと考えています。患者さんが一人で頑張るのではなく、私たちが伴走者として寄り添い、二人三脚でゴールを目指す。こうした手厚いサポートが、治療の継続率にも繋がっています。
「治療継続率90%以上」を目指す|渋谷睡眠・呼吸メディカルクリニックのこだわり
睡眠時無呼吸症候群の治療は、ただ機器を渡して終わりではありません。
患者さん一人ひとりが納得して治療を続けることが大切です。
そのために、渋谷睡眠・呼吸メディカルクリニックでは、院長だけでなくスタッフ全員が専門家としての高い意識を持って患者さんを支えています。
ーーCPAP療法の継続率は、一般的にどれくらいなのでしょうか?
楠院長
CPAP治療を開始してから1年後にどれくらいの方が継続できているかというデータがあります。例えばアメリカでは、機器を購入して自己管理するスタイルが多いためか、継続率は約70%にとどまります。日本でも、機器メーカーにサポートを任せきりにしている施設では、同様に3割ほどの方が1年以内に治療をやめてしまうという報告があります。
一方で、我々のように専門的に、かつ手厚く指導を行う施設では80%台後半まで高まります。そして当院では、それをさらに上回る90%以上を目指し、日々の診療に当たっています。単に便利というだけでなく、この「質の高さ」こそが、私たちが最もこだわっている部分です。
ーー質の高い医療のために、スタッフの方々にはどのようなことを求めていますか?
楠院長
院長である私だけでなく、スタッフ全員が睡眠医療の専門家であることを徹底しています。睡眠学会認定技師をはじめ、全員がこの分野で研鑽を積んできたプロフェッショナルです。CPAPの使い方から日々のちょっとした疑問まで、どのスタッフに質問しても的確にお答えできる体制を整えています。
医師の前では緊張して言いたいことが言えない、という患者さんもいらっしゃいます。そんな時でも、スタッフになら気軽に相談できる。クリニックという「チーム」全体で患者さんを多角的にサポートすることで、治療の質を高め、継続へと繋げていきたいと考えています。
ーー最近では「いびきレーザー治療」なども聞きますが、そういった治療は行っていますか?
楠院長
当院では行っていません。その理由は、科学的根拠(エビデンス)に基づいた治療のみを提供したいと考えているからです。例えば、一部の美容クリニックなどで行われているレーザー治療は、無呼吸の回数が改善する方が4人に1人程度というデータがある一方で、やけどの瘢痕(はんこん)によって、かえって症状が悪化するリスクも報告されています。
私たちは、患者さんの身体にとって最善の選択をしたい。そのため、当院で行う検査や治療は、すべて保険診療が適用される、有効性と安全性が確立されたものに限っています。目先の新しさや手軽さにとらわれず、誠実に医療と向き合うことが、専門クリニックとしての責任だと考えています。
楠院長が目指す治療のゴールとは?
楠院長が見据えるのは、単にいびきや無呼吸の回数を減らすといった、症状の改善だけではありません。
治療を通じて患者さんの人生そのものを、より豊かに、より前向きにすること。
渋谷睡眠・呼吸メディカルクリニックのこれからについてもお聞きしました。
ーー診療において、先生が最も大切にされていることは何ですか?
楠院長
患者さんと「共通認識」を持って治療をスタートすることです。なぜこの治療が必要なのか、治療によって何が期待できるのか。その点を最初にしっかりご理解いただき、納得していただくことが、前向きに治療を続けるモチベーションになると考えています。
そのため、初診時の説明には特に時間をかけています。そして、治療が始まったら、医師である私だけでなく、経験豊富なスタッフ全員が、チームとなって患者さんをサポートします。私たちは、患者さんにとっての「サポーター」でありたい。不安や疑問をいつでも解消し、安心して治療に取り組める環境づくりを、クリニック全体で心がけています。
ーー治療によって、患者さんにはどのような変化が見られますか?
楠院長
治療を始めて「初めて眼鏡をかけた時のように、世界が鮮やかに見えるようになった」とおっしゃった方がいます。それだけ、無自覚のうちに脳がクリアでない状態で過ごしていたということですね。
また、非常に興味深いのは、性格的な変化です。睡眠不足は感情の抑制を難しくするため、治療前はイライラしがちだった方が、治療後にご家族から「すごく穏やかになった」と言われるケースが少なくありません。ご本人の健康だけでなく、夫婦仲の改善にまでつながることもあるのです。
治療によって日中の活力が戻り、生活の質が向上したと感じる方もいらっしゃいます。「学生時代にやっていた空手を再開しました」と嬉しそうに報告してくださった方もいて、そういうお話を聞くと、私も心から嬉しくなりますね。
ーー最後に、日中の眠気やいびきに悩む読者へメッセージをお願いします。
楠院長
日本には、睡眠時無呼吸症候群の治療が必要な方が約940万人いると推計されていますが、実際に治療を受けている方は100万人に満たないのが現状です。治療法があるのに、知らないまま、あるいは気づかないまま過ごしていることで、仕事や生活の質を下げてしまっているのは、本当にもったいないことだと思います。
「知らないのは、我々医療者の責任でもある」。私はそう考えて、SNSなども通じて情報発信を続けています。この記事を読んで少しでも思い当たることがあれば、どうか「自分だけは大丈夫」と思わずに、まずは現状を知るために専門医に相談していただきたいです。
渋谷睡眠・呼吸メディカルクリニック
診療科目 | 内科・呼吸器内科 |
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住所 | 〒150-0042 東京都渋谷区宇田川町25−4 渋谷ダッキープラザビル 4階 |
診療日 | (火・水・木・金・土) 10:00-13:00/15:00-19:00 |
休診日 | 月・日・祝 |
院長 | 楠 裕司 |
TEL | 03-5428-0659 |
最寄駅 | JR山手線・埼京線・湘南新宿ライン「渋谷駅」より徒歩1分 京王井の頭線「渋谷駅」より徒歩1分 東急東横線・田園都市線「渋谷駅」より徒歩1分 東京メトロ銀座線・半蔵門線・副都心線より徒歩1分 京王井の頭線「神泉駅」より徒歩8分 |