ベスリクリニック|田中 遥 院長|”薬に頼らない”心療内科|ビジネスパーソンの人生の再設計を支える

2025年12月26日に実施したインタビューを元に執筆しています。

働き方の多様化、先の見えない社会情勢、そして職場での複雑な人間関係──現代のビジネスパーソンは、かつてないほどのストレスとプレッシャーにさらされています。

「朝、どうしても起きられない」
「駅のホームに立つと動悸がする」
「パソコンの画面を見ると涙が出てくる」
「頭が働かず、簡単なメールすら返せない」

そんな不調を感じながらも、「自分が弱いだけだ」「休んだら迷惑がかかる」と自分を責め、責任感ゆえに足を止められない人がどれほど多いことでしょうか。

東京・神田にあるベスリクリニックは、まさにそんな「働く人々」の駆け込み寺として支持を集めています。

今回は、ベスリクリニックの院長を務める田中 遥(たなか はるか)先生にインタビューを実施しました。ご自身も医学生時代からビジネスの最前線に関わり、コンサルティングやアプリ開発に携わってきたという異色の経歴を持つ田中院長。

ビジネスパーソン特有の悩みに深く寄り添う診療方針や現状について、じっくりとお話を伺いました。

目次

田中 遥 院長のキャリア|医師でありながら「ビジネス」の現場を知る

医学部在学中からビジネスの世界に身を置き、組織や仕組み作りに携わってきたという田中院長。

田中先生のこれまでの経歴について詳しくお聞きしました。

ーー医学生時代にコンサルティング会社でのインターンや、アプリ開発コンテストの運営に携わっていたそうですね。

田中院長
 医学生としては少し変わった学生生活だったかもしれません(笑)。もちろん、医師になりたいという意志は揺るぎないものでした。ただ、学生時代から「医療という枠組みの中だけに留まっていていいのだろうか?」という漠然とした思いがあったんです。
 「医療×何か」を掛け合わせることで、診察室の中だけでは解決できない課題を解決できるのではないか。新しい価値を生み出したい。そんな思いが強くありました。当時、出会った友人たちと意気投合して、「Applicare(アプリケア)」という医療系アプリ開発コンテストを主催したりもしました。そこには医学生だけでなく、デザイナーや経済学部の学生、エンジニアなど、全く異なるバックグラウンドを持つ人たちが集まっていました。
 多職種が混ざり合い、それぞれの専門性を持ち寄って一つのプロダクトを作り上げていくプロセスが、純粋に楽しかったんですね。この時の「異分野との連携」や「チームで物を作る」という経験は、今のクリニック運営の原点になっているかもしれません。
 大学卒業後は研修医として臨床の現場に出ましたが、専門医のコースへ進むか、それとも別の道を模索するか、進路にはかなり悩みました。そんな時、元コンサルタントの医師達が集まって作ったベスリクリニックの「ビジネスパーソンを成長して社会復帰させる」という理念に触れ、心が動いたんです。また、私自身のインターン経験や、社会との接点を持ち続けたいという思いとも重なり、2018年にこのクリニックに参画しました。

ーーコンサルティング会社でのインターン経験などは、現在の診療、特に患者さんとの向き合い方にどのように活かされていると感じますか?

田中院長
 非常に大きく活きていると思います。むしろ、この経験がなければ今の診療スタイルにはなっていなかったでしょう。
 コンサルティング会社で、上司から口を酸っぱくして言われた言葉があります。それは、「課題や問題を『構造』で捉えなさい」ということです。目の前の現象だけに囚われるのではなく、その現象を引き起こしているメカニズムや全体像を見なさい、と。
 実はこれ、心療内科の診療とも深く通じる部分があるんです。患者さんが「眠れません」「不安で動悸がします」と症状を訴えられた時、単に「不眠ですね、睡眠薬を出しましょう」と対症療法をするだけでは、一時しのぎにしかなりません。
 なぜなら、その症状が出ている背景には、必ず原因となる「構造」があるからです。例えば、その不眠の原因は、物理的に業務量が多すぎて睡眠時間が削られているからなのか。あるいは、上司とのコミュニケーション不全によるストレスなのか。はたまた、ご本人の「完璧主義」という思考の癖が、自らを追い詰めているからなのか。
 そういった背景にある構造を質問しながら紐解いていく。そして、「症状」ではなく「構造上の課題」を解決していく。このアプローチは、まさにコンサルティングの思考法そのものです。

ーーなるほど。患者さんを診るというより、その人が置かれている「プロジェクト」や「環境」全体に対してコンサルティングしていくようなイメージですね。

田中院長
 そうですね。また、私自身がビジネスの現場にいたことで、サラリーマンの方々がいかに過酷な環境で戦っているかを肌感覚として知っていることも大きいです。責任を持ってクライアントのために働き、厳しい納期に追われ、理不尽な要求にも耐える……。成果を出すことと、心身のバランスを崩すことは、本当に紙一重のところにあるんです。
 だからこそ、私は診察室に入ってこられる方を「患者さん」という枠組みだけで見るのではなく、「社会という戦場で戦っている一人のビジネスパーソン」「責任感ゆえに頑張りすぎてしまった一人の人間」として見るようにしています。「それは大変でしたね、その状況なら誰でも辛くなりますよ」と、ビジネスの文脈で共感できること。それが、患者さんとの信頼関係を築く第一歩だと感じています。

ベスリクリニックが“薬に頼らない”理由|再発しない「スキル」を身につける

ベスリクリニックが掲げる「薬に頼らない心療内科」というポリシー。

田中院長はあくまでも薬を処方しないのではなく、「薬だけに頼らない」という意味を込めていると語りました。

ーー多くの患者さんが一番気にされるポイントだと思うのですが、「薬に頼らない」というのは、具体的にどのような方針なのでしょうか? 

田中院長
 これは、決して「一切薬を使わない」という意味ではありません。誤解を恐れずに言えば、「必要な時にはしっかり使う」けれど、「薬だけに頼って全て解決したとは思わない」というのが、私たちのスタンスです。
 例えば、適応障害の方の場合、職場のストレスなどが原因で、不眠や激しい不安、抑うつ気分といった症状が出現します。こうした辛い症状を緩和し、枯渇してしまったエネルギーを回復させるために、お薬は非常に有効な手段です。まずはぐっすり眠れるようにする、過敏になった神経を休める。そのために薬を使うことは、治療の初期段階ではとても重要です。
 しかし、ここで立ち止まって考えてみてほしいのです。薬で症状が落ち着き、気分が楽になったとします。でも、原因となっている職場の環境や、ストレスに対するご本人の受け止め方、対処スキルが変わっていなければどうなるでしょうか?
 薬をやめたり、復職して同じ環境に戻ったりした途端に、また同じ症状がぶり返してしまう可能性が高いですよね。

ーー確かに、根本的な原因がそのままだと、再発のリスクは高いままですね。

田中院長
 ですから、私たちは患者さんに最初にご説明します。「薬を使うことで一時的に楽にはなりますが、それが根本解決ではないですよ」と。その上で、「症状を取る治療(薬物療法など)」と並行して、「状況を解決できるスキル」や「環境調整」、「思考の癖(認知)の修正」といった「薬以外の方法」を一緒に実践していきます。
 自分自身のストレスサインに早く気づく方法、上司への適切な相談の仕方、完璧を目指しすぎない考え方……そうした「セルフマネジメント能力」を身につけていくことで、だんだんと「元の自分」を取り戻し、結果として薬がいらなくなっていくんです。
 最終的には「薬からの卒業」を目指す。それが、当院が掲げる「薬だけに頼らない治療」の真意です。薬はあくまで補助輪であり、最終的にはご自身の足で漕げるようになっていただくことがゴールです。

ーーその「薬以外の方法」を実践するために、どのような体制を整えているのでしょうか? 医師一人ですべてを行うのは難しそうです。

田中院長
 医師一人でできることには限界があります。診察時間も限られていますしね。だからこそ、当院では多職種による「チーム医療」を徹底しています。
 現在、臨床心理士、公認心理師、保健師、臨床工学技士、カウンセラーなど、非常勤を含めると約50名弱の専門スタッフが在籍しています。これほどの規模の専門職チームを抱えているクリニックは、全国でも珍しいと思います。なぜこれほどの人数が必要かというと、患者さんの状態や治療のフェーズによって、必要なアプローチが全く異なるからです。
 治療には段階があります。まずは、休職直後などで頭が混乱し、自分を責めている時期。この時は、まず話をじっくり聴き、安心感を与え、悪循環を断ち切るためのカウンセリングが必要です。
 次に、体調が回復してきて、復職を考え始める時期。ここでは、具体的な再発防止策を練ったり、職場の人間関係やマネジメントの悩みを解決するスキルトレーニングが必要になります。そのためにビジネストレーニングを準備しています。あるいは、過去のトラウマが影響して体が動かないという方には、身体感覚に働きかけるセラピーであるSE(Somatic Experiencing®)を取り入れています。

ーー患者さんのその時の状態に合わせて、最適な専門家をマッチングさせるわけですね。

田中院長
 はい。患者さんのフェーズを考慮したオーダーメイドの治療です。50人の専門職がいれば、「この患者さんの今の課題には、このカウンセラーのアプローチが合うだろう」「このフェーズなら、こちらの心理士とトレーニングをした方がいい」というように、選択肢が豊富にあります。
 医師が司令塔となり、チーム全体で患者さんを支える。「薬だけ渡して終わり」ではなく、人が人に寄り添い、対話を通じて解決策を探っていく。手間も時間もかかりますが、それこそが人が本来持っている回復力を引き出す一番の近道だと信じています。

田中 遥 院長の専門性|産業医の視点を持つからこそできる「社会復帰」支援

ベスリクリニックのもう一つの大きな特徴は、在籍する医師の多くが産業医の資格や経験を持っていることです。

「病気そのものを診て治療する主治医」と「働く環境と安全を支える産業医」。本来、立場が異なるとされるこの二つの視点を併せ持つことで、どのようなメリットが生まれるのでしょうか。

ーー田中先生ご自身も含め、産業医の経験豊富な先生が多いと伺いました。これは日常の診療にどう影響していますか?

田中院長
 非常に大きく影響していますね。診療の「ゴール設定」が違うと言ってもいいかもしれません。通常の医療であれば、「病気が良くなったか(症状が消えたか)」が最初のゴールになります。
 しかし、産業医の視点が入ると、「その状態で本当に元の職場で働けるのか?」という、より実践的でシビアなゴール設定になります。産業医は、企業の内側に入り込み、社員が安全に働けるか、復職後に再発しないかという「予防」の視点を強く持っています。企業が求める業務レベルや、復職判定の厳しさも熟知しています。
 私たちは主治医として患者さんを診ていますが、常にその産業医的な視点、つまり「職場に戻った時に、この方は耐えられるだろうか?」「企業側はどのような配慮なら受け入れられるだろうか?」という視点を見据えて治療計画を立てています。
 例えば、診断書一つ書く際にも、「ただ休ませてください」と書くのと、「〇〇という環境調整があれば就業可能です」と書くのでは、企業側の受け止め方も、その後の患者さんのキャリアも変わってきます。
 企業の論理もわかるからこそ、患者さんに対して「ここまで回復しないと復職は厳しいですよ」と現実的なアドバイスもできますし、企業側と交渉するための具体的な助言もできるのです。
 一緒に働く医師に産業保健活動を勧めるのは、その産業医としての企業経験が診療に生きるからです。

ーービジネスパーソンにとっては、単に元気になればいいわけではなく、「仕事ができる状態(=キャリアを継続できる状態)」に戻れることが良い状態ですよね。

田中院長
 だからこそ、私たちはスタッフ育成においても「我々は医療者である前に、一人のビジネスパーソンである」という意識を徹底しています。患者さんはビジネスの第一線で戦っているプロフェッショナルの方々です。その方々の悩みや背景を深く理解するためには、私たち医療者自身も社会の流れ、経済の動き、仕事の感覚を理解していなければなりません。
 IT業界のスピード感、金融業界のプレッシャー、サービス業の対人ストレス……。業界ごとの特徴や「あるある」を知っているだけで、患者さんの言葉の裏にある苦しみを想像する解像度が格段に上がります。
 「ああ、あの業界なら今の時期は決算で大変ですよね」「その役職だと、上と下の板挟みになりますよね」と、文脈を共有し共感できるかどうか。そこが、「この先生はわかってくれる」という信頼関係の構築に直結すると思っています。

インポスター症候群・トラウマケア|多様化する現代の悩みに、新たな選択肢を

最近増えているという「インポスター症候群」や、言葉にならない苦しみを抱える「トラウマ」へのアプローチといった、最新のトピックについてお聞きしました。

多様化する現代人の悩みに合わせ、ベスリクリニックは進化を続けています。

ーー先ほど、患者さんの層や悩みの質が変わってきているというお話がありましたが、具体的に最近増えていると感じる悩みはありますか?

田中院長
 そうですね。少し前に「HSP(Highly Sensitive Person)」、いわゆる「繊細さん」という概念が広まりましたが、最近注目しているのは「インポスター症候群」です。
 これは、客観的には成功していたり、高い能力を持っていたりするにもかかわらず、自分自身を過小評価してしまい、「自分は詐欺師(インポスター)だ」「いつか無能だとバレるのではないか」と恐れてしまう心理状態のことです。私たちはこれを「謙遜さん」とも呼んでいます。
 「インポスター症候群」は、特に責任ある立場のビジネスパーソンや、真面目に努力を重ねてきた方に多く見られます。昇進したり、プロジェクトを成功させたりしても、「これは運が良かっただけ」「周りの助けがあったから」と思い込み、自分の実力として受け取れない。その結果、常に「実力不足が露呈する恐怖」に怯え、過剰に働いてしまったり、逆にチャンスを避けてしまったりして、心を病んでしまう。
 こうした悩みは、従来の「うつ病」や「不安障害」という診断名だけでは捉えきれない部分があります。昨年、これに関する書籍も出版させていただきましたが、患者さんご自身が「これ、私のことかもしれません」と気づいて来院されるケースも増えていますね。

ーー「謙遜」は美徳とされますが、それが過剰になると自分を苦しめる鎖になってしまうのですね。他にはどのようなアプローチに力を入れているのでしょうか?

田中院長
 最近、特に力を入れているのが「トラウマ」の領域です。トラウマというと、大きな事故や事件を想像されるかもしれませんが、職場でのパワハラや、成育期の日常的な否定の言葉の積み重ね、蓄積性トラウマは、一つ一つは小さくても、心にとっては大きな傷(トラウマ)になり得ます。
 こうしたトラウマを抱えた患者さんの中には、「頭ではわかっているのに、体が動かない」という状態になる方がいらっしゃいます。「会社に行かなきゃいけない」と頭では理解している。でも、朝になると体が鉛のように重くなり、玄関から一歩も出られない。
 これは甘えではなく、体が「そこに行くと危険だ」と記憶していて、全力でブレーキをかけている状態なんですね。こうした場合、言葉によるカウンセリング(認知へのアプローチ)だけでは限界があります。いくら理屈で納得しても、体の反応は止まらないからです。
 そこで、体の感覚にアプローチするソマティック(身体的)なセラピーなども取り入れ、言葉にならない身体の叫びを解きほぐしていく治療にも取り組んでいます。「動けない自分」を責めるのではなく、「体が自分を守ろうとしてくれている反応なんだ」と理解するだけで、救われる方はたくさんいます。

ーー従来の精神科医療の枠を超えて、様々な悩みに対応されているのですね。オンライン診療についてはいかがですか?

田中院長
 オンライン診療も少しずつ取り入れています。これには個人的な強い想いもありまして。私は福島県の会津で育ったのですが、地方に行くと、心療内科や精神科の数が圧倒的に少なく、受診したくてもできない「医療過疎」の問題が深刻なんです。「辛いけれど、近くに病院がない」「知り合いに見られるのが怖くて行けない」……そうやって我慢して、悪化してしまう方を一人でも減らしたい。
 当院は東京・神田のクリニックではありますが、オンラインを活用することで、全国どこにいても質の高いカウンセリングや診療を受けられるようにしたいと考えています。特に、私たちの得意とする「薬以外の対応策を作るカウンセリング」や「価値観の再構築」といった対話の部分は、オンラインでも十分に効果を発揮します。薬は地元のクリニックでもらいつつ、カウンセリングは当院の専門スタッフとオンラインで繋がる。そんな「ハイブリッドな利用」も提案していきたいですね。

「BANI」の時代|正解のない世界で苦しむ現代人の脳を守るために

コロナ禍を経て、私たちの働く環境は激変しました。田中院長は、現代を「VUCA(ブーカ)」を超えた「BANI(バニ)」の時代だと表現します。

BANIとは、Brittle(脆い)、Anxious(不安)、Nonlinear(非線形)、Incomprehensible(不可解)の頭文字をとった言葉。

この混沌とした時代において、ビジネスパーソンの心と脳にはどのような変化が起きているのでしょうか。

ーーここ数年で、患者さんの訴えや症状にさらに変化は感じられますか?

田中院長
 ガラッと変わりましたね。世界情勢も含め、いつ何が壊れるかわからない、正解が見えない時代になりました。企業も個人も「正解がない中で走り続けること」「変化し続けること」を求められています。その結果、心が折れたというよりも、「頭がいっぱいで考えられない」「モヤがかかったように集中できない」といった、いわゆるブレインフォグのような症状を訴える方が増えています。こちらも「インポスター症候群」のように責任感が強い人に起きやすい症状なのですが、答えのない問題に脳をフル回転させすぎて、脳がオーバーヒート(炎症)を起こしてしまっている状態です。

ーーそうした「脳の疲れ」に対して、新しい治療法も取り入れているそうですね。

田中院長
 はい。従来の投薬やカウンセリングに加え、欧米ではスタンダードになりつつあるTMS治療(経頭蓋磁気刺激治療)などの「ニューロモデュレーション」にも力を入れています。お薬はどうしても副作用で眠気が出たり、頭がボーッとしたりすることがありますが、TMSは磁気によって脳の特定部位を直接刺激し、低下している脳の血流や働きを活性化させる治療法です。
 鬱症状や不安を改善するだけでなく、低下してしまった認知機能(集中力、判断力、思考力)を上げていく効果が期待できるため、「仕事のパフォーマンスを落としたくない」「休職はできないけれど、早く以前のような頭の回転を取り戻したい」というビジネスパーソンとは非常に相性が良いんです。

ーー「休めないけど、早く良くなりたい」という方にはありがたいですね。

田中院長
 ただ、こちらは自費診療でご提供させていただいております。もちろん日本の保険診療制度は素晴らしいですが、どうしても新しい医療技術の導入には時間がかかります。私は学生時代に留学した台湾で、最新医療がどんどん適用されていくスピード感に衝撃を受けました。「世界はこんなに進んでいるのか」と。ベースとなる保険診療を大切にしつつも、世界標準の優れた医療があれば、それを患者さんが受けやすい形で提供していく。それも、ビジネスの最前線で戦う方々を支える私たちの重要な役割だと考えています。

病いは「転機」|休職を「人生のブレーキ」にしないために

田中院長に「休職」ついてお聞きしたところ、その捉え方について熱く語ってくれました。

多くの人にとって、休職は「挫折」や「停滞」、あるいはキャリアの汚点と感じられるかもしれませんが、田中院長はそれを「人生の再設計の時間」だと定義します。

ーー先生が診療の中で大切にされている言葉や哲学はありますか?

田中院長
 研修医時代に指導医から教わった「ニーバーの祈り」という言葉を、今もずっと大切にしています。それは『変えられるものを変える勇気、変えられないものを受け入れる冷静さ、そしてその違いを見分ける知識を与えてください』という言葉です。
 患者さんが来院される時、多くの方はストレスに押しつぶされそうで、頭がグルグルと回っています。「あの上司が変わってくれれば」「過去の失敗を消せれば」……そうやって、自分ではどうにもならないことに悩み、すべてを自分でなんとかしようとして、いっぱいいっぱいになっているんです。
 そんな時、私たちはまず一緒に立ち止まり、整理をします。

「上司の性格は変えられませんね。これは『変えられないもの』として置いておきましょう」
「でも、上司への報告のタイミングや、ストレス発散の方法は変えられますね。これは『変えられるもの』です」

 そうやって仕分けをしていくプロセスそのものが、治療の第一歩なんです。

ーー変えられることと、変えられないことの仕分け。シンプルですが、渦中にいるとそれができなくなるんですね。

田中院長
 そうなんです。そして、治療を通じてその仕分けができるようになると、最終的に患者さんご自身の物語(ナラティブ)が変わっていきます。最初は「休職してしまった、自分はダメだ」と自分を責めていた方が、治療やリワークプログラムを経て、自分の思考の癖や対処法を身につけていく。
 すると、復職する頃には「休んでよかったです」「この期間があったから、自分はこう働きたいと気づけました」と言って、笑顔で卒業されていくんです。休職という一見ネガティブな出来事が、その後の人生をより良く生きるためのポジティブな転機に変わる。
 「病いは転機」です。辛い経験をしたからこそ、人は強くなれるし、周りにも優しくなれる。その人が人生を取り戻し、ストーリーが変わる瞬間を見るのが、医師として一番やりがいを感じる時ですね。

ーー最後にメッセージをお願いします。

田中院長
 心療内科に来ると、「不安を消したい」「落ち込まないようにしたい」と願う方が多いです。でも、私はあえて「落ち込むことや不安になることは、決して間違いではありませんよ」とお伝えしています。
 例えば「動悸」がしたとします。それは決して体が壊れたわけではなく、自律神経が正常に働いて、「今は逃げなさい」「戦う準備をしなさい」と体に指令を出してくれているサインなんです。体はあなたを守ろうとして、正常に反応しているだけ。
 だから、不安や落ち込みを感じる自分を否定しないでください。私たち人間はロボットではありません。嬉しいという感情があるように、不安という感情もあって当たり前なんです。
 大切なのは、その感情を消すことではなく、「それが出てきた時にどう対応するか」を知ることです。「もう限界だ」と思う前に、ぜひ一度、お話をしに来てください。

ベスリクリニック

診療科目心療内科
住所〒101-0045
東京都千代田区神田鍛冶町3丁目2 神田サンミビル 8,7,5階
診療日(月・火・水・木・金)
11:00〜20:30
(土)
10:00〜18:30
休診日
院長田中 遥
TEL03-5295-7555
最寄駅JR・東京メトロ銀座線「神田駅」より徒歩1分
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この記事を書いた人

診療ナビ」はアドバイザーナビ株式会社が運営する医療情報発信メディアです。開業医の先生方に直接取材を行い、診療への姿勢や先進医療への取り組み、地域医療への貢献、さらには医療業界に対する考えや想いをお届けします。読者の皆さまにとって、医療をより深く理解し、身近に感じていただける発信を続けてまいります。

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