おうえんポリクリニック|簗 由一郎 先生|「美容外科医である前に、一人の医師でありたい」|形成外科専門医から見た保険診療の“本来の価値”と“患者ファースト”とは

2025年11月26日に実施したインタビューを元に執筆しています。

「まぶたが重くて、夕方になると頭痛がする」
「足の爪が食い込んで痛いけれど、どこで治療すればいいのか分からない」
「美容クリニックで高額な見積もりを出されて、怖くなって帰ってきた」

身体の不調やコンプレックスを感じながらも、「美容整形に行くのはハードルが高い」「本当にこの治療でいいのか不安だ」と、受診をためらっている方は多いのではないでしょうか。

インターネット上にはきらびやかな広告や極端な情報が溢れ、何が自分にとって正しい治療なのか、そして誰を信じればいいのか、迷子になってしまっている患者さんが後を絶ちません。

今回お話を伺ったのは、埼玉県を中心に10箇所以上もの医療機関を飛び回り、形成外科専門医として地域医療を支え続けている簗 由一郎(やな ゆういちろう)先生です。

眼瞼下垂(がんけんかすい)や巻き爪治療のエキスパートでありながら、「自分は美容外科医ではなく、あくまで『医師』でありたい」と語る簗先生。

なぜ先生はひとつのクリニックに留まらず、あえて過酷な「多拠点診療」という道を選んだのでしょうか。先生のお人柄やお考えについて詳しくインタビューを実施しました。

目次

形成外科医 簗 由一郎 先生|「多拠点診療」を選んだ理由

形成外科医として大学病院でのキャリアを積み、医局長まで務めた簗先生。

しかし現在、先生は自身のクリニックを大きく構えることよりも、埼玉県内の複数の病院やクリニックへ自ら出向いて診療を行うという、非常にユニークなスタイルを貫いています。

まずはその背景にある、医師としての原点について伺いました。

ーー簗先生は現在、特定のクリニックの院長としてではなく、埼玉県内の10箇所以上の医療機関を回って診療されていると伺いました。移動だけでも大変だと思いますが、なぜあえてそのような働き方を選ばれているのでしょうか?

簗先生
 一言で言えば、「必要とされている場所に、自分の技術を届けたいから」です。私が拠点としている埼玉県は、実は人口10万人あたりの医師数が全国でも非常に少ない県です。その中で、さらに「形成外科専門医」となると、数はもっと限られてしまいます。
 大学病院で医局長をしていた頃、県内の様々な病院から「形成外科の先生を派遣してほしい」「専門医に診てほしい患者さんがいる」という依頼がたくさん来ていました。しかし、大学の医局の人数も限られており、すべての依頼に応えて医師を派遣することは物理的に難しかったです。
 その時、「それなら、組織を離れてフリーになった自分が、その依頼に応えて回ればいいのではないか」と考えました。もし私が一箇所に大きなクリニックを構えてしまうと、どんなに良い治療をしていても、患者さんにそこまで足を運んでいただかなければなりません。足が痛くて歩くのが辛い方や、ご高齢の方にとって、遠くの病院へ通うのは大変な負担です。
 だったら、私が動いて、患者さんが通いやすい地元の病院やクリニックで専門的な治療を受けられるようにした方が、絶対に患者さんのためになる。そう考えて、現在の「多拠点診療」というスタイルに辿り着きました。

ーー「患者さんに来てもらう」のではなく、「先生自らが出向く」ということですね。

簗先生
 そうですね。それに、私はもともと「臨床」の現場が好きなんです。大学病院で研究や論文作成に没頭してアカデミックな道を究める選択肢もありましたが、私はやっぱり、目の前の患者さんと向き合って、手術や治療をして、直接「ありがとう」「楽になったよ」と言っていただける瞬間に一番のやりがいを感じるタイプなのかもしれません。
 手間のかかる外来診療を負担に感じる先生もいますが、私はむしろ、患者さんの悩みを直接聞いて、それを解決するために手を動かしている時間が好きなんですよね。現場で患者さんと接し続けるこの働き方は、私自身の性分にも合っているのだと思います。

簗 由一郎 先生の眼瞼下垂治療|「美容外科医」ではなく「医師」として

簗先生が専門とする分野の一つに、まぶたが下がって見えにくくなる「眼瞼下垂(がんけんかすい)」の治療があります。

近年、美容医療の分野でも非常に人気の高い施術ですが、簗先生は昨今の「美容医療の商業化」に対して、警鐘を鳴らします。

ーーまぶたの治療というと、どうしても「美容整形」のイメージが強く、敷居が高いと感じる読者も多いと思います。先生は、この分野にどのようなスタンスで取り組まれているのでしょうか?

簗先生
 そこは私が一番大切にしている部分です。私は、美容外科医である前に、一人の「医師」でありたいと常に思っています。最近はまぶたの手術を行うクリニックが増えましたが、中には利益を優先するあまり、本来なら健康保険が適用できる症状の患者さんに対しても、高額な自費診療を強く勧めるケースが見受けられます。「保険診療だと仕上がりが変になりますよ」「保険では見た目の要望は一切聞けませんよ」といった極端な説明をして、患者さんを不安にさせてしまうこともあるようです。
 もちろん、「二重の幅をミリ単位でこだわりたい」「モデルのようなパッチリした目になりたい」といった純粋な美容目的であれば、自費診療になるのは当然です。しかし、私が主に診ているのは、40代、50代の働き盛りの方々です。「まぶたが重くて夕方になると目が開かない」「頭痛や肩こりがひどい」「夜の運転で信号が見えづらい」といった、生活に支障が出ている「症状」を抱えている方たちなんです。

ーーまさに「生活の質」に関わる切実な悩みですね。そうした症状であれば、保険診療でも対応できるのでしょうか?

簗先生
 はい、生活に支障をきたすような症状があれば、基本的には保険診療の対象になります。そして誤解してほしくないのは、「保険診療だからといって、見た目をないがしろにするわけではない」ということです。
 形成外科医として、機能的な改善を目指すのはもちろんですが、その上で可能な限り自然で美しい仕上がりを目指すのは、私たち専門医としてのプライドでもあります。「変にはしたくないけれど、あくまで症状を治して楽になりたい」という方に対して、数十万円もする自費手術を無理に勧める必要はないと私は考えています。

ーー先生の言葉を聞いて、安心する患者さんは多いと思います。

簗先生
 そう言っていただけると嬉しいですね。私たちは長年、社会保険料を納めてきたわけですから、保険で治せる病気や症状は、堂々と保険を使って治すべきなんです。
 最近では、他院で高額な美容手術を受けた後にトラブルが起きたり、違和感が残ってしまったりした患者さんからの相談を受けることも増えました。「美容整形をしたから」と他の病院で門前払いされてしまい、行き場を失って私のところに辿り着く方もいます。
 そうした方々に対しても、「医師」として何ができるか、どうすればリカバリーできるかを親身になって考えたい。困っている人を助けるのが医師の仕事ですから、そこには美容も保険も関係ないと思っています。

簗 由一郎 先生の診療哲学|美容医療の“迷子”に寄り添う

近年、SNSなどを中心に「クマ取り」や「裏ハムラ法」といった美容医療の用語が飛び交い、多くの人が関心を寄せる一方で、「本当にその手術が必要なのか?」「高額すぎて手が出ない」と悩まれる方も多いのではないでしょうか。

簗先生は、流行に流されない「現実的で安全な選択」を提唱しています。

ーー下まぶたのたるみやクマ取りについても、美容整形のクリニックで取り扱っている印象があります。先生はどのようにお考えですか?

簗先生
 確かにおっしゃる通りで、最近は「裏ハムラ法」や「ミッドフェイスリフト」といった、高度で複雑な手術がSNSなどで持て囃される傾向にあります。もちろん、それらは素晴らしい術式ですし、劇的な効果が出る場合もあります。しかし、必ずしもすべての人にそこまでの手術が必要かというと、私はそうではないと考えています。
 複雑な手術は、それだけ身体への侵襲(ダメージ)も大きく、費用も高額になります。また、神経に近い部分を操作するため、稀に痺れが残るなどのリスクもゼロではありません。私は患者さんに喜んでもらいたいとの思いで医療をしています。なので患者さんにリスクの危険がある手術はできれば避けたいという思いが強いんです。難易度の高い手術もどうすればリスクを回避できるかということを常に考えながら手術をしています。「90人が大成功しても、10人にトラブルが起きる」ような手術は、私にはできません。100人手術したら、100人全員がトラブルなく笑顔で帰ってほしい。
 だからこそ、私はあえて「基本に戻る」ことも大切にしています。例えば、下まぶたのクマ取りであれば、高額な手術をしなくても、シンプルな「脱脂(脂肪取り)」だけで十分に満足される患者さんはたくさんいらっしゃいます。「安価で、侵襲が少なく、トラブルのリスクが低い手術」で、今より良くなる。それが、私が提案したい現実的な美容医療のあり方なんです。もちろん、この方針はシンプルな手術を選択して満足いかなかったときに、リカバリーできる技術や、患者さんがより高い結果を求めるときには対応可能な技術があることが条件だと考えています。
 私が大事に考えているのは、費用やリスクを考慮せずに医師の理想を押し付けるのではなく、費用、ダウンタイム、リスクなどバランスを考えて、患者さんにとって何が一番よいか一緒に相談しながら決めていくということにつきます。

ーー先生のもとには、他院での手術結果に不安を感じた患者さんが相談に来ることもあるそうですね。

簗先生
 ええ、増えていますね。例えば、地方から有名な先生のところへ行って手術を受けたけれど、術後に目がゴロゴロしたり違和感が出たりして不安になってしまった方。地元の眼科に行っても「美容整形をした目は診られません」と断られ、手術をしたクリニックに電話しても「遠方だから来院してください」と言われてしまい、パニックになってメールをくださることもあります。
 そういう時、私は専門医として冷静にアドバイスをするようにしています。写真を見せていただいて、「手術自体は変なことはされていないから大丈夫だよ」「今の症状は一時的なものだから、視力が落ちたりすることはないから安心して」と伝えると、皆さん本当にホッとされます。
 その上で、「眼科に行くときは『美容整形をした』と言うよりも、『目が痛い』『見えづらい』という今の症状を中心に伝えてごらん」とアドバイスすることもあります。そうすると、保険診療できちんと診てもらえたりするんです。

ーーそこまで親身になってくれる先生は、なかなかいらっしゃらないと思います。

簗先生
 これはもう、ボランティア精神に近いかもしれませんね(笑)。でも、そうやって不安な心を取り除いてあげることも、医師の大切な仕事だと思っています。他院でやった手術だから関係ない、と切り捨てるのではなく、困っているなら手を差し伸べる。そういう活動を通じて、「人の役に立っているな」と実感できることが、私のモチベーションにもなっているんです。

簗 由一郎 先生の巻き爪治療|「たかが巻き爪」ではない

簗先生のもう一つの専門分野が「巻き爪・陥入爪(かんにゅうそう)」の治療です。

「命に関わる病気ではないから」と軽視されがちですが、歩行を困難にし、全身の不調にも繋がる深い悩みです。

先生は、この分野においても「患者さんにとっての最適解」を追求し続けています。

ーー巻き爪治療についても、様々な情報があって何を選べばいいか分からないという声を聞きます。先生はどのような基準で治療法を提案されているのでしょうか?

簗先生
 巻き爪治療の現場でも、まぶたの治療と同じような「情報の非対称性」が起きていると感じます。巻き爪治療には、大きく分けてワイヤーやクリップを使う「矯正治療(自費)」と、爪の生え方を根本から治す「手術(保険)」の2つがあります。
 矯正治療は切らなくて済むので人気がありますが、実は「矯正をやめると、また爪が巻いて戻ってしまう」というケースが少なくありません。高い費用を払って何度も矯正を繰り返しているのに、半年も経つとまた痛くなる……このループに陥ってしまい、総額で何十万円も使ってしまったという患者さんによく出会います。

ーー痛みがぶり返すたびに費用がかかるのは、患者さんにとって大きな負担ですね。

簗先生
 そうなんです。もし、矯正で何度も再発してしまうような爪の性質であれば、思い切って手術をしてしまった方が、患者さんの人生にとってプラスになることがあります。手術といっても、爪の幅を少し狭くして、食い込んでいる部分が生えてこないように処置をするものです。保険が適用されるので費用も抑えられますし、何より「もう巻き爪で悩まなくていい」という状態を目指せます。
 もちろん、手術が怖いという気持ちも分かりますし、まずは矯正から試すのも良い選択です。ですが、選択肢として「手術という根本治療がある」こと、「それが保険で安価に受けられる」ことを知らされずに、延々と高額な矯正を続けさせられているとしたら、それは医師として誠実ではないと思うのです。

ーー先生は、ご自身で「ネイル・エイド」という巻き爪矯正器具の開発もされていますよね。これにはどういった想いが込められているのですか?

簗先生
 実は、巻き爪の矯正治療というのは、技術的な差というよりも「道具」と「継続」が重要なんです。私が外来ですべての患者さんの矯正を行うこともできますが、それだと患者さんは通院の手間もかかりますし、その都度費用も発生します。
「もともとは、私の外来が混んできたので、短時間で簡単に付け外しできる巻き爪器具は欲しい」そう考えて、医療機器メーカーと共同開発したのが「ネイル・エイド」です。
 ところが思った以上に使い勝手がよくて、「これであれば、患者さんが自宅で手軽に、安価にケアできるかもしれない」と考えて一般販売にも取り組みました。少し扱いが難しい部分もあるので、高齢の方などは難しいかもしれませんが、外来診療と同じ効果を自宅で実感できると喜んでもらっています。着脱ができ、繰り返し使えるのがネイルエイドの特徴です。

ーー医師でありながら、「病院に来なくても治せる方法」を開発されたのですか?

簗先生
 はい(笑)。矛盾しているように聞こえるかもしれませんが、軽度の巻き爪であれば、自分でケアして治せるのが一番いいじゃないですか。私のところへわざわざ来なくても、この器具を使って痛みが取れるなら、それが患者さんにとってのベストです。私は、もっと重症で手術が必要な方や、自分ではどうにもできない方の治療に専念できますから。
 おかげさまで多くの方に使っていただいており、ネット通販のレビューなどで「痛みが消えました」「もっと早く出会いたかったです」という声をいただくと、診察室で患者さんを治した時と同じくらい嬉しい気持ちになりますね。これも一つの、医師としての社会貢献の形だと思っています。

簗 由一郎 先生からのメッセージ|40代・50代の「現役世代」に向けて

簗先生から眼瞼下垂や巻き爪で悩んでいる方々、そして保険診療や自由診療の選択を迷っている方々に向けてメッセージをいただきました。

ーーお話を伺っていると、簗先生の根底には常に「困っている人を助けたい」というシンプルな、しかし強い情熱を感じます。

簗先生
 そうですね。私が医師を志したのも、浪人時代に自身の不甲斐なさや存在価値に悩むなかで「人の役に立つ仕事がしたい」と強く思ったことがきっかけでした。形成外科を選んだのも、病気を治すだけでなく、患者さんの見た目や機能を回復させて、その人の人生そのものを明るくできる点に惹かれたからです。
 特に今の40代、50代の方は、仕事に家庭に介護にと本当に忙しく、ご自身の体のことを後回しにしがちです。まぶたが重くても「歳のせいだから」と諦めたり、爪が痛くても「我慢すれば歩けるから」と放置したり。
 でも、そうした不調を取り除くだけで、毎日の景色がパッと明るくなったり、歩くのが楽しくなったりするんです。そのお手伝いをするのが、私の役割だと思っています。

ーー最後に、記事を読んでいる読者の皆さまへメッセージをお願いします。

簗先生
 私は現在、「自分の城」を持たず、必要とされる場所へ出向くスタイルで診療を行っています。もしあなたが、まぶたの重みや巻き爪の痛みで悩んでいて、「どこに行けばいいか分からない」「高額な治療を勧められたらどうしよう」と不安に思っているなら、ぜひ一度、私が診療を行っている医療機関へ相談に来てください。
 私ができることは全力で治療しますし、もし私の専門外であれば、信頼できる先生をご紹介することもできます。「美容外科医」としてではなく、あなたの悩みに寄り添う「かかりつけ医」のような存在として、頼っていただければ嬉しいですね。

※簗先生は、埼玉県内の複数の医療機関で診療を行っています。以下のサイトにてご確認ください。

巻き爪・陥入爪治療の相談室
まぶた・目の下のたるみのお悩み専門WEBメディア

※受診をご希望の方は、各医療機関のホームページ等で診療日をご確認の上、お問い合わせください。

※診療日や時間、対応可能な治療内容は医療機関によって異なります。必ず事前に各医療機関へお問い合わせください。

おうえんポリクリニック

診療科目内科・皮膚科・美容皮膚科形成外科・まぶたの外来
住所〒359-0002
埼玉県所沢市中富1037-1 
診療日(月・火・水・金・土)
9:00~12:00
(月・火・水・金)
14:00~18:00
(土)
14:00~17:00
※簗医師の診療日
第2・4火曜日午後不定期・月曜日午後・土曜日午後
※簗医師の診察には電話予約が必要です
※簗医師のその他勤務先はこちら
休診日木曜・日曜・祝祭日
院長並里(白井)まさ子
TEL04-2990-5818
最寄駅西武新宿線「新所沢駅」より
「新所沢駅」東口1番乗り場から
西武バス「新所01:所沢ニュータウン」行き
または
「新所03:航空公園」行き
に乗り、「ニュータウン中央」バス停下車、徒歩約10分
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この記事を書いた人

診療ナビ」はアドバイザーナビ株式会社が運営する医療情報発信メディアです。開業医の先生方に直接取材を行い、診療への姿勢や先進医療への取り組み、地域医療への貢献、さらには医療業界に対する考えや想いをお届けします。読者の皆さまにとって、医療をより深く理解し、身近に感じていただける発信を続けてまいります。

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