仁友クリニック 杉原 德彦 院長|その長引く咳、諦めないで。喘息治療の専門家が語る「治らない咳」の根本解決策とは

2025年9月2日に実施したインタビューを元に執筆しています。

「どこに行っても咳が治らない」

「もう治療を諦めかけていた」

本記事は、そんな長引く咳や気管支喘息でお悩みの方は必見です。

中野坂上駅から徒歩2分の「仁友クリニック」は、祖父の代から続く喘息診療の経験を土台に、60年以上にわたり気管支喘息の専門クリニックとして、難治例にも丁寧に向き合ってきました。

ご自身も喘息に苦しんだ経験を持つ杉原 德彦(すぎはら なるひこ)院長に「治らない咳への治療」と、常識にとらわれない独自のアプローチ、そして医療への熱い想いについて語っていただきました。

目次

江戸時代から続く医師の家系|杉原 德彦院長が呼吸器内科医を志した理由

親子3代にわたって喘息治療に挑み続けてきた仁友クリニック。

その歴史は古く、地域だけでなく全国の患者さんから厚い信頼を寄せられています。

まずは、クリニックを継承した杉原院長のルーツと、医師、そして呼吸器内科医を志した背景に迫ります。

ーー先生のご実家は、代々お医者様の家系だと伺いました。

杉原院長:私の家は江戸時代から続く医師の家系で、私で17代目になります。この仁友クリニックは、1960年に祖父である杉原 仁彦が立ち上げました。当時は今のように喘息の薬がほとんどなく、喘息の専門家だった祖父が「喘息で苦しむ患者さんを一人でも多く救いたい」という想いで始めたのがきっかけです。その後を父が継ぎ、そして私が3代目の院長として引き継いでいます。

ーー生まれた時から、お医者様になることを運命づけられていたのですね。

杉原院長:そうですね。周りからはそのように見られていましたし、そう育てられた部分もありました。しかし、ご多分に漏れず、反発したくなる時期もありまして(笑)。高校時代は文系クラスにいて、医学部に進むつもりは一切なかったんです。

ーーそこから医師を目指すことになった、何か転機があったのでしょうか?

杉原院長:高校時代にずっと打ち込んでいたアルペンスキーで肩に大怪我をしてしまい、卒業後の春休みに手術やリハビリを受けることになったのが大きな転機でした。そこで初めて「患者」として医療の世界に触れ、医師という仕事の素晴らしさに改めて気づかされたのです。それまでは、おもちゃづくりに興味があって、子どもたちの笑顔を見るのが好きで、その分野に進みたいと思っていました。でも、考えてみれば今の仕事も同じかもしれません。病気に苦しむ患者さんに笑顔を取り戻していただく。この仕事に、今では大きなやりがいを感じています。

ーー数ある診療科の中から、なぜ「呼吸器内科」を専門に選ばれたのですか?

杉原院長:実家のクリニックの影響はもちろんありましたが、他にもいくつか理由があります。学生時代、いろいろな科の勉強をする中で、なぜか呼吸器の分野が一番すっと頭に入ってきたんです。ただ、当時、呼吸器内科は学生にあまり人気のない科でした。というのも、大学病院で呼吸器内科が診る患者さんの多くは、手術ができない進行肺がんなど、いわゆる終末期の患者さんでした。受診されてから数ヶ月でお亡くなりになる方も少なくなく、やりがいを感じにくいと思う同級生が多かったようです。しかし、私はそうした患者さんと向き合うことに、むしろやりがいを感じていました。残された時間が限られている中で、いかにその方の苦しみを和らげ、ご家族との大切な時間を穏やかに過ごせるようにサポートするか。そこに医師としての大きな使命があると感じていたんです。そしてもう一つ、自分自身が喘息に苦しんだ時期があったことも、この道を選んだ大きな理由です。患者さんと同じ痛みを経験しているからこそ、その辛さが身に染みて分かりますから。

なぜ、咳は治らないのか?|杉原院長が語る喘息治療の「新しい常識」

多くの喘息治療はガイドラインに沿った治療に基づいて行われます。

しかし、それでも症状が良くならず、悩んでいる方がいるのも事実です。

杉原院長は、その「治らない」理由にこそ、専門家として向き合うべきだと語ります。

ーー喘息治療を受けても、なかなか症状が改善しない患者さんがいるのはなぜでしょうか?

杉原院長:喘息の治療には、国内外の専門家がまとめた「ガイドライン」という指針があり、それに則った診療を行えば、8割以上の方の症状は安定していきます。問題は、それに当てはまらなかった残りの2割の方々です。そうした方々は、時に「もう良くならない」と匙を投げられてしまったり、精神的な問題と片付けられてしまうケースさえ見受けられます。当院には、そうした状況に追い込まれた方々が、セカンドオピニオンを求めて全国から多数いらっしゃいます。実は、「重症の喘息」と言われている人ほど、喘息以外の要素が強く関わっている傾向があるんです。私たちがすべきことは、その方が良くならない原因がどこにあるのかを突き止め、ひとつひとつ丁寧に対処していくことに尽きます。

ーー「喘息以外の要素」とは、具体的にどのようなことでしょうか?

杉原院長:その過程で発見される問題として、大半を占めるのが「副鼻腔炎」や「アレルギー性鼻炎」といった鼻の炎症です。気道は鼻から肺まで一続きにつながっています。そのため、鼻に炎症があれば、それが気管支に影響を及ぼし、咳や喘息の症状を引き起こしたり、悪化させたりするのです。この「鼻と喘息の関係」は、専門家の中では一般的になってきていますが、まだ世間一般での認識は低いのが現状です。

ーー大学病院などでは、鼻の治療は耳鼻咽喉科の領域になるかと思います。

杉原院長:大学病院にいた頃は、まさにそこに物足りなさを感じていました。鼻は耳鼻科の領域なので、呼吸器内科医として踏み込んだ治療ができない。耳鼻科の先生の治療方針が、私の考える喘息治療の観点からは十分ではないと感じても、口を出すことはできません。「それならば、自分のやりたいようにやればいいじゃないか」と考え、大学病院を辞めて父の元へ戻り、このクリニックで診療を始めました。当院では、鼻と喘息、鼻と咳という部分に、特に重きを置いて診療を行っています。

喘息・長引く咳の鍵は「鼻」にある?|仁友クリニック独自の治療アプローチ

「気道を一括して診る」という方針のもと、仁友クリニックでは常識にとらわれない多角的なアプローチで治療を行っています。

その中心となるのが、咳や喘息の根本原因となりうる「鼻の炎症」への徹底したアプローチです。

ーー仁友クリニックでは、鼻の治療をどのように進めるのでしょうか?

杉原院長:まず、副鼻腔炎が疑われる場合は、CTを撮影して炎症の有無や程度を正確に判断します。喘息の観点から重要なのは、副鼻腔炎が重症か軽症かということではなく、「炎症があるかないか」です。たとえ自覚症状がなくても、CTで炎症の兆候が見つかれば、そこにアプローチしなければ根本的な解決は望めません。大きな病院であれば1週間かかるような検査も、当院では約40分で結論を出せる体制を整えています。

ーー耳鼻咽喉科の診察とは、どう違うのでしょうか?

杉原院長:耳鼻咽喉科は、基本的には手術を専門とする科です。そのため、手術が必要なレベルの患者さんなのか、薬で対応できるレベルの患者さんなのか、というところで線引きをされることが多いのです。しかし、咳や喘息で悩んでいるのは、むしろ手術適応にはならない軽い炎症を持つ方々なんです。そのため、耳鼻科的には問題ないとされても、呼吸器内科の視点で見れば、そのわずかな炎症が咳の原因になってしまっている。そうやって「どっちつかず」になって、宙ぶらりんになってしまっている患者さんが大勢いらっしゃいます。私たちは、その隙間を埋める役割を担っていると考えています。

ーー鼻に対する、何か特別な治療法があるのでしょうか?

杉原院長:はい。当院では一般的な副鼻腔炎治療と「Bスポット治療(上咽頭擦過療法)」という、少し珍しい治療も行っています。これは、鼻の最奥部にある「Bスポット」と呼ばれる部位の炎症を、塩化亜鉛という薬を塗布して鎮める治療法です。もともとは東京医科歯科大学の耳鼻咽喉科教授が喘息治療として始められたもので、祖父や父もその教えを受けて実践してきました。咳や痰で長く悩んでいる方に、高い効果が期待できる治療法の一つです。

ーー他には、どのような特徴的な治療がありますか?

杉原院長:他の治療法でどうしても改善が見られない重症の患者さんには、「金コロイド療法(金療法)」という選択肢もあります。これは、金を溶かした溶液を週に1回、約1年間にわたって注射する治療法です。その昔、結核などの感染症治療に用いられていたのですが、その患者さんの中から重症の喘息が高い確率で改善することが分かり、喘息治療に応用されるようになりました。日本では祖父によって推奨され、一般化したものです。現在は保険適用外の自費診療となり、実施している医療機関はほとんどありませんが、非常に良好な結果を得られるケースが少なくありません。副作用のリスクもあるため、開始前には詳細な検査を行い、慎重に判断した上で実施しています。

あなたの咳はどのタイプ?咳の種類から探る原因

ひとくちに「咳」と言っても、コンコンと乾いた咳、ゼロゼロと痰が絡む咳など、その症状は様々です。

実は、その咳の種類の違いが、病気の原因や進行度を知る上で重要な手がかりになると杉原院長は言います。

ーー「空咳」と「痰が絡む咳」には、どのような違いがあるのでしょうか?

杉原院長:鼻の炎症が原因となっている咳で考えると、非常に興味深い関係性が見えてきます。実は、鼻の炎症がまだ軽い段階では「空咳(からぜき)」として現れることが多いんです。それが悪化してくると、だんだんと鼻の症状が強くなり、「痰が絡む咳」に変化していく傾向があります。つまり、極めて軽い副鼻腔炎が悪化していく過程で、咳の性質も変わっていくのです。「ただの空咳だから大丈夫」と思っていると、実はその裏で鼻の炎症が静かに進行している、というケースは少なくありません。このように、咳のサインを正しく読み解くことが、早期発見・早期治療につながります。

「専門家とは、ガイドラインで救えない人を救うこと」| 杉原院長が貫く診療哲学

「医療の答えは、常に患者さんの中にある」と語る杉原院長。

その言葉の裏には、一人ひとりの患者さんと真摯に向き合い、決して諦めないという強い信念がありました。

ーー診療を行う上で、最も大切にされていることは何ですか?

杉原院長:私が後輩たちにもいつも言っているのは、「専門家というのは、ガイドラインに載っている治療をやっても良くならない人たちのことを考え、救ってあげるのが仕事」だということです。ガイドライン通りに治療して治せるのであれば、それは専門家でなくてもできる。ガイドライン自体にも「これが全てではない」と、ちゃんと書いてあるんですよ。だからこそ、ガイドライン通りにいかなくて悩んでいる人たちをどうにかしてあげるのが、私たち専門医の本当の役割だと思っています。本に書いてあることが全てではありません。良くならない患者さんがいらっしゃれば、その原因や理由を徹底的に見つけ出して、良くしてさしあげたい。その一心です。

ーー先生のその熱意が、口コミで多くの患者さんを呼んでいるのですね。

杉原院長:ありがたいことに、そうやって困っている方がまた別の方を紹介してくださる、という形で輪が広がっています。北海道から福岡、さらには海外在住の日本人の方が「咳を診てくれる医師はいないか」と探してたどり着かれたこともありました。

ーー情報発信にも力を入れていらっしゃると伺いました。

杉原院長:本の出版などを通じて、私の治療法や考え方を発信しています。それは、患者さんに正しい知識を知ってほしいという想いと同時に、全国の医師にも伝えたいという想いがあるからです。私の治療法の中には、耳鼻科のガイドラインから外れるものもあります。そのため、他の先生から「その治療はどうなのか」と疑問を呈されたり、患者さんが不安に思われたりすることもあります。そうした壁を乗り越えていくためにも、地道な情報発信は欠かせません。幸い、最近では喘息にも鼻にも効果が期待できる新しい薬が登場するなど、私の考えてきた点が線で繋がっていくような状況になってきました。より説得力のある話を、これからも広げていきたいですね。最終的には、患者さんがわざわざ遠くの中野まで来なくても、地元の先生に適切な治療をしてもらえるようになるのが理想です。

情報が溢れる時代だからこそ知ってほしい、医療との向き合い方

医療情報が簡単に手に入るようになった現代ですが、杉原院長は、その便利さの裏にある危険性にも警鐘を鳴らしています。

一人の医師として、そして社会の一員として感じる課題とは。

ーー現代の医療について、何か課題に感じていることはありますか?

杉原院長:二つあります。一つは、良い薬が製造中止になってしまう問題です。私の治療では、いわゆる「売れ筋」ではない、少しマニアックな薬を使うことがあります。しかし、そうした薬はメーカーさんからすると採算が合わないため、「売れていないから」という理由で製造販売が中止されてしまうことがあるのです。その薬でなければ救えない患者さんがいるのに、非常に歯がゆい思いをしています。もう一つは、皆さんがメディアの情報に流されすぎているという点に、少し不安を感じます。テレビなどの情報は、時に話を大げさに表現します。間違ってはいないのですが、「これが全てだ」と視聴者が信じ込んでしまうと、思わぬ弊害を生むことがあります。

ーー具体的には、どのような弊害があるのでしょうか?

杉原院長:例えば、テレビで特定の病気が特集されると、翌日には「自分もそうではないか」と心配になった患者さんが大勢クリニックに押し寄せます。もちろん、早期発見につながるケースもありますが、多くの場合、話を聞けば違うと分かります。それでも「調べてほしい」となると、本来は必要のない検査をすることになり、余分な医療費がかかってしまう。「医療費の増大が問題だ」と言うのであれば、こうした過剰な不安を煽るような報道のあり方も、見直す必要があるのではないかと感じています。

長引く咳や喘息に悩むあなたへ|杉原院長からのメッセージ

最後に、今まさに咳や喘息で苦しんでいる方々へ向けて、杉原院長から温かいメッセージをいただきました。

ーーちなみに、仁友クリニックは「予約制」ではないと思いますが、何か理由があるのでしょうか。

杉原院長:お待たせしてしまう患者さんには大変申し訳ないのですが、いつでも誰でも来られるように、あえて予約制にはしていません。例えば、かかりつけ医の予約が2週間先まで取れないけれど、薬がもうすぐ切れてしまう。急な仕事で予約をキャンセルしたら、次はなかなか入れない。そうやって困っているという話をよく耳にします。私たちは、そうした患者さんたちの「駆け込み寺」のような存在でありたい。だから、「いつでも来ていいですよ」というスタンスを貫いています。

ーー最後に、この記事を読んでくださっている方々へメッセージをお願いします。

杉原院長:「長年、咳に苦しめられている」「どこに行っても治らない」「治療を諦めていた」そんな咳で苦しむ患者さんを、一人でも多く笑顔にしたい。それが私の、そして仁友クリニックの願いです。専門家として60年以上の経験と、私自身が喘息で苦しんだ経験。その全てをかけて、あなたの「治らない咳」の原因を突き止めます。諦めかけてしまった方も、ぜひ一度、ご相談ください。「咳が止まってよかった」「呼吸がラクになって嬉しい」と喜んでいただける、その笑顔を増やすために、スタッフ一同、全力でサポートさせていただきます。

仁友クリニック

診療科目内科、呼吸器内科、アレルギー科、小児科
住所〒164-0012
東京都中野区本町2-45-10
診療日(月・火・木・金)9:00~12:00(受付終了11:30)/13:30~18:00
(土)9:00~12:00(受付終了11:30)/13:30~17:00
休診日水、日、祝
院長杉原 德彦
TEL03-3372-5121
最寄駅東京メトロ丸ノ内線・都営大江戸線「中野坂上駅」より徒歩2分
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この記事を書いた人

診療ナビ」はアドバイザーナビ株式会社が運営する医療情報発信メディアです。開業クリニックの先生方に直接取材を行い、診療への姿勢や先進医療への取り組み、地域医療への貢献、さらには医療業界に対する考えや想いをお届けします。読者の皆さまにとって、医療をより深く理解し、身近に感じていただける発信を続けてまいります。

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